「ユリカ、どう思う?」

私はベリューム家にある自分の部屋で、殿下から意味不明のプロポーズをされた話をユリカに相談していました。ちなみに、部屋があまりにも広すぎるので、屋根裏で過ごしていたときのようにユリカと一緒に生活しています。

「騙すような方ではないと思いますよ」

騙すと言えばスカーゲンを思い出し、少々イラッとしました。あれが男性不信のトラウマになっているのかもしれません。

「そうかな……」
「モニカ様にはご相談されましたか?」

モニカはその場にいました。殿下がプロポーズしたことが気に入らなかった様子でしたが、帰りの馬車で私がリュメルたちにされた酷い仕打ちの話をすると、不便に思ったのか急に態度が変わり、応援してくれるようになりました。

「うん、殿下に他意はないと。だから婚約者として堂々とリュメルの前に行きなさいって」
「お嬢様、私もそう思いますよ。この際、殿下を信じてみては如何でしょう?」
「う、うん……そうね……」

正直に言えば、ユリカに肯定的な後押しを期待していました。しかし、私のような平凡な女性を大国の王子様が選ぶとは、やはり信じがたく……

結論として、騙される覚悟で殿下のお側でカアラプシャン国の行く末を見届けようと決めました。卑怯かもしれませんが、殿下の威光でリュメルたちに制裁、つまり復讐を果たし、ベリューム家を奪還しようと考えたのです。

***

あれから半月が経ち、会談の日を迎えました。

ライクス王国から正式に招待されたリュメル一行は宣戦布告とは知らず、リゾート気分で宮殿に訪れていました。形式的な会談の後は視察と称して税金で観光するつもりです。へクセやモッペルまでついて来ているのですから。

ふん、ここへ来たが最後です。

いよいよ会談が始まります。私はユリカと共に隣の控え室でモニカから呼び出されるのを待っていましたが、途切れ途切れに聞こえる会談の内容が気になり、つい壁に耳を傾けてしまいました。

「リュメル閣下、お会いできて光栄です」
「ゲーニウス殿下、お初にお目にかかります」
「御婚儀には出席できず、代理で失礼いたしました」
「いえ、とんでもない。ライクス王国から数々の御祝い品を頂き、ありがとうございました」
「ところで、御内儀はお変わりありませんか?」
「えっ……ええ」
「そうですか。実は僕も婚約者がいまして……」

──話が早いですよ、殿下!宣戦布告より私の紹介が先なの?まだ心の準備が……

「ユリカ、もうすぐよ」
「お嬢様、お気を確かに!」
「私のスタイル、問題ない?」
「はい、とても素敵でございますよ」

ここにはユリカだけでなく、スタイリストが私のドレスや装飾品、髪型、お化粧を完璧に仕上げてくれていました。とはいえ、どんなに着飾っても所詮は私なので自信がありません。

その時、モニカが呼びに来ました。
「フロリアン、出番よ」
「は、はい」
「あらあら、孫にも衣装ね。よくお似合いですわ」
「それ、褒めてないです」
「うふふ、リラックスよ、フロリアン。落ち着いてリュメルをやっつけてちょうだい、私も援護するわ!」
「……うん」

かなりドキドキしていましたが、モニカの興奮を見ると少し冷静になってきました──