「おお、フロリアン!君に逢いたかった!」

ゲーニウス殿下は笑顔で私を迎えてくださいました。そして、なんとハグをなさったのです!

──ひゃ、あ、あの、憧れの王子様に……

私は体が硬直してしまい、更に殿下から甘い香りが漂ってきて、ボーっとしてしまいました。上品な装飾が施されたパールホワイトの宮廷服を着こなした殿下は、ますます素敵な男性になっておられました。

ああ、恥ずかしいです。殿下、もうお辞めになってください。……いえ、正直に申しますと、ずっとこうしていたいです……

執務室で長めのハグをされていると、モニカが咳払いして夢のような時間が終わりを告げました。

「殿下、フロリアンが困ってます」
いえ、困ってないですけど。
「あ、嬉しくてつい。それにしても、暫く会わないうちに一段と綺麗になったね」
「き、綺麗だなんて……」
殿下こそ、お世辞がお上手になりましたね。貴族院では、全く私に無関心なご様子でしたのに。

「我がライクス王国はとても優秀で素敵な女性を手に入れた。フロリアン、僕が全力で守ることを約束しよう」
「ありがとうございます。殿下、私にできることがあれば何なりとおっしゃってください」
「……僕は君の美しい文字をいつも眺めていた」
「え?それは父の代筆をさせていただいた外交書類のことですか?」
「そう。最近は元御主人のね」
「……はい」
「フロリアン、僕の仕事を手伝ってくれないか?」

実はそのお言葉を待っていました。ライクス王国の外交主宰のお仕事を手伝えることは、カアラプシャン国の行く末を見られるチャンスです。私が政治的に利用されるのは仕方ありませんが、正しい方向へ導いていただければそれで良いのです。これが間近で感じられるのは願ってもないお話だと思います。

「私で良ければ、喜んでお手伝いさせていただきます」
「それはありがたい、フロリアン!」

そして、殿下にぎゅっと両手を握られました。私、もう気絶しそうです。それにしても、殿下って女性に対してこんなに積極的な方だったのかしら?貴族院でのイメージとは少々異なります。

「フロリアン、今日は疲れているだろうから、お屋敷でゆっくりして、落ち着いたら顔を見せてくれ」
「お心遣いありがとうございます。では……」
私は顔を赤らめながら、そうお答えしました。

***

それから私たちは、騎士に護衛されてモニカ様と馬車に乗り、父が建てたというお屋敷へ向かいました。

「まったく、殿下ときたらハグが長いって!」
「モニカ様、ゲーニウス様も今では外交主宰です。女性の扱いにも慣れていらっしゃるのでしょう」
「あー、フロリアン?まずモニカと呼び捨てにしてちょうだい。それから殿下は貴族院時代から硬派な男性よ。あんなにデレデレしたお姿、初めてご覧になったわ!」

そ、そうなんだ。どういうことかしら。よっぽど私からカアラプシャン国の機密情報が知りたいのでしょうか……?

私は馬車に揺られながら、正面でイライラしているモニカに気づかないフリをして、物思いにふけっておりました。