私たちは早朝からディーナが用意した馬車に乗り、国境まで進みました。ここでライクス王国の役人と落ち合い、騎士団に護衛されながらライクス王国に入国しました。これも全てディーナのおかげです。

「ありがとう、ディーナ。無事に国境を越えられましたね」
「はい、手筈通りです。ところでお嬢様、久しぶりに見るライクス王国の街並みはいかがですか?」
「ええ、とても懐かしいですわ」

……私は留学時代を思い出しました。整然と並ぶ美しい建物や街路樹、人々で賑わう活気ある市場など、どれもカアラプシャン国とは大違いです。私は時間が経つのも忘れるくらい、この国の景観に見惚れていました。

やがて首都に到着した私たちは、宮殿の敷地内にある大きな建物に入り、最終的な署名などの手続きを行って、ようやく亡命が叶ったのです。

「あー、これで晴れてライクス王国の民になったのね!」
「はい、お嬢様!お疲れ様でございました!」
私はユリカと共に天井を見上げながら背伸びをしました。とても清々しい気分です。
その時、私と同い年くらいの女性に声をかけられました。スラッとした高身長でとても美しい女性です。その女性の後ろには四人の騎士が控えており、物々しい雰囲気が漂っています。

「フロリアン……ですね?」
「はい、そうです」
「やっぱり面影があるわ!」
「は、はい……」

正直に言うと、どなたか失念しています。「どちら様でしょうか?」とも申し上げにくいです。困惑した私の様子が、この女性に伝わったようです。

「あら、貴族院の学友だった『モニカ』をお忘れになって?」
「……あ!」

私は思い出しました。確かに貴族院でご一緒でした。でもほとんどお話ししたことがありません。というのも、伯爵令嬢の彼女は美しい容貌でいつも大勢の学友に囲まれていたから、地味な留学生である私は近寄りがたく……いや、正直に言えば苦手な存在でした。容姿端麗でスタイル抜群、華やかで高飛車な女性というのはどうも……

「私が貴女を担当することになりましたの。よろしくね、フロリアン」
「え?あの、担当って……?」
「貴女は要人特別待遇。だから我が国が保護いたしますわ」
「要人?私が!?」
「ええ、カアラプシャン国の外交主宰のご夫人だったからね。なので貴女には二十四時間、護衛が付きます」
「そんな、大袈裟です!私ごときに!」
「これは殿下の命令なのよ」
「ゲーニウス殿下の!?」
「貴女にとてもお会いしたがっているご様子。妬けるくらいにね!」

きっと彼女はからかっているんだわ。大国の王子様が……あの眩いゲーニウス様が、私ごときに会いたいなんて。もしかして政治的に利用したいのかしら?私からカアラプシャン国の情報が聞きたくて……

「フロリアン、それではご挨拶に参りましょう」
「えっ、いきなりですか!?」

私たちはモニカの先導で宮殿の奥へと進みました。周りには兵士が護衛しています。亡命直後に王子様に謁見とは、この驚きの展開に私はかなり戸惑っています!