衛兵たちの手によって、なすすべもなく縛り上げられて床に転がされた私と父。

「フハハハハ……いいざまだなぁ? マルタン侯爵。そして……」

ジロリとギルバート王子は私を睨みつけてきた。

「サファイア……お前、まさか呪いを解いたのか?」

「は、はい。その様ですね……」

何故か相手が王子だというだけで無意識に委縮する私。

「嘘を申すな! お前のような悪女が善行を行えるとは思えぬわ! どのような姑息な手段を取ったのかは分からないが……お前達は勝手にこの城に上がり込んできた曲者だ! 直ちに地下牢へ閉じ込めてやる!」

すると、素早く父が言い返す。

「な、何だと! ギルバート王子! 侯爵である我らを地下牢へ入れるなど、そのような狼藉な振舞が許されるとでも思っていられるのですか!」

偽造した招待状で潜入するのは十分罪になると思うのだけど……しかし、地下牢へ等入れられたらたまったものでは無い。何か……何か手を打たなければ大変なことになってしまう!

「黙れ! 誰か奴を黙らせろ!」

「はい!」

すぐ傍にいた衛兵は強引に父に猿轡をしてしまった。

「モガーッ! モガッ!」

モガモガ抗議する父をしり目に、ギルバート王子は言葉を続けた。

「お前たちは私とティアラの婚約パーティーをぶち壊したのだ! それだけで十分罪に値する!」

そしてギルバート王子は傍らに立つ女性の肩を抱き寄せる。
ふ~ん……成程。あの女性がティアラと言って、サファイアと婚約破棄した原因か。もはや会場内はシンと静まり返り、集められた客たちの視線は全て私達に向けられていた。

「ギルバート王子……」

その時、私の目にギルバート王子の右手の中指に赤いダイヤの指輪がはめられていることに気付いた。

あ……あの指輪。あれは確か……。

その時、会場内に声が響き渡った。

「ギルバート! 一体これは何の騒ぎだ?」

人混みを掻き分けるようにある人物が近づいて来る。しかも声には聞き覚えがあった。

「え‥‥…?」

その人物を目にした時、衝撃を受けた。

「ああ、来てくれたんだな? クロード」

ギルバート王子が笑いかける。何という奇跡!! 天の助け!!
そう、現れた人物はあのクロードだったのだ。そしてクロードは私をじっと見つめる。こうなったら彼に助けを求めよう!

「ク……」

クロードと名を叫ぼうとした矢先――

「誰なのだい? このふたりは。何故、縛られているんだい?」

クロードは眉をしかめながらギルバートに尋ねた。

「え……?」

その言葉に凍り付いた。そして悟った。
ああ、そうか……彼には私が誰なのか分からないのだ。考えて見ればおそらく私が彼の前で人の姿を見せたのは、ほんの一瞬のことだ。覚えているはずないだろう。

「ああ、このふたりはこの城に勝手に上がり込んだ侵入者だ。これから地下牢へ連れて行くところだ」

するとクロードが眉をしかめた。

「何だって? あそこは迷宮になっていて、一度入れば二度と生きては出て来れないと言われている場所じゃなかったか?」

「え! そ、そんな!」

冗談じゃない! そんな恐ろしい場所に入れられたら、いっかんの終わりだ!
その時、ふとエメラルドさんの言葉が脳裏を過る。

『サファイア。何か困ったことがあったら私の名前を呼んで頂戴。貴女は私の数少ないお友達なんだから』

そ、そうだ! 私には彼女と言う強い味方がいる。

「た、助けてー! エメラルドさーんっ!!」

ダメもとで私は声を張り上げて心の底から彼女の名を叫んだ――