現れたのはシルバーの髪の青年と栗毛色の髪の毛を高く結い上げた女性だった。
ふたりはペアルックを着ているのだろうか? 同じ色合いのクリーム色の衣装を着ている。

「ぐぬぬぬ……ついに、ついに図々しくも我らの前に現れおったな……」

イケメン父の額に青筋が浮かび、まるでこの世の敵とでも言わんばかりの殺気の込めた目で睨みつけている。

いやいや、お父様。私たちは招待されていないのですよね? 偽造した招待状でこの会場にやって来たのに、図々しくも現れおって……とは、先方の言うセリフなのでは無いでしょうか?

突っ込みどころ満載だったが、注目されたくないので私は貝のように口を閉ざすことにした。

それにしても……。

私は集まった人々に愛想笑いを振りまきながら手を振るギルバート王子を見つめた。

何、あれ。全然大したことない顔じゃないの。
ギルバート王子など、クロードや魔法使いに比べたら……いや、比べるのもおこがましい。いたって平凡な顔にしか見えない。

一体、小説の中のサファイアは王子の何処に惚れたのだろう? 性格だって悪いし……。

「サファイア、じきに彼らは挨拶回りで我らの前に姿を現すだろう」

父が耳元で囁いてくる。成程、作戦会議というわけか。きっとギルバート王子が私たちの前に立った時、度肝を抜かせたいのだろう。そしてボロを出させるつもりなのだろう。

そこで私は頷いた。

「はい、そうですね。お父様」

「だがここでじっと待っているのは性に合わん。だから、我等の方から打って出るのだ!」

「へ?」

父の言葉に耳を疑う。

「さぁ行こう、マリンよ! あ奴の驚愕した表情を拝むとしよう!」

そして父はムンズと私の腕を掴み、人混みを掻き分けてずんずんギルバート王子に近付いていく。

「え! ちょ、ちょっとお父様! 本気で言ってるのですか!?」

しかし、興奮がマックス状態の父に私の声が届くはずは無い。

「どいてくれ! 道を開けてくれ!」

父は大きな声でギルバート王子に近付いていく。人々は何事かと驚愕の目で私達を見つめ……完全に目立ちまくっている。

「お、お父様! 落ち着いてください!」

私の訴えも虚しく……前方約10m程近づいたところで父が叫んだ。

「ちょっと待った! こんな婚約披露パーティー、私は絶対に認めないぞ!」

ギャ~ッ!! 言っちゃった! つ、ついに恐れていた言葉を言っちゃったよ!

すると、ギルバート王子とお相手の女性が驚愕の表情でこちらをみた。

「お、お前は……マルタン侯爵! え……ま、まさか…お前はファイアなのか!?」

ギルバート王子は私を見ると顔色を変えた。そして次の瞬間――

「衛兵!! あの2人を捕らえよ!」

ええっ!? な、なんで私まで!! 

「しまった! 一旦逃げるぞ! サファイア!」

父は私の腕を掴んだまま、踵を返すも時すでに遅し。私たちは衛兵たちに取り囲まれてしまった。

「お、お父様……」

震えながら父を見た。
大丈夫、きっと何か策があるに違いない。そうでなければあんな目立つ行為を堂々と取るはずが無いだろう。

しかし――

「く……悔しいが、ここまでか……」

父が心底悔しそうに項垂れる。

「ええっ!? 嘘でしょう!?」

「よし! 衛兵たちよ。その者達を縛り上げろ!」

『はっ!』

ギルバート王子の命令に一斉に返事をする衛兵たち。
そして王子は私たちに近付いて来ると不敵な笑みを浮かべた――