「え……? お父様、本気で言ってるのですか?」

いやだなぁ、そんな面倒くさい場になどはっきり言って行きたくない。大体私はギルバート王子には会ったこともないのに。

「当然だろう? ギルバート王子はお前という侯爵令であり、こんなに美しい婚約者がいるのに、他の女性を愛しているだ? サファイアが行方不明になったから婚約破棄? あげくに婚約披露パーティーなどふざけたことを抜かしおって……!!」

父は肩を震わせ、手にしていたスプーンを強く握りしめる。まるで今にも柄がぐにゃりとまがってしまいそうだ。

「ですがお父様……」

それは確かにギルバート王子の命令で魔法使いが私を蛙にかえるという呪いに掛けたのは確かだろうけど、どちらかというと恨みを持っているのは魔法使いのほうなのに?

『ええ~!! そんなぁ!』と叫ぶ魔法使いの顔が脳裏に浮かび、おかしくなって思わず口元がにやけてしまう。

「そうか、やはりそうだったのか? 笑ってしまうほどにギルバート王子に恨みを抱いているのだね? よし、お前の気持ちは良く分かった! 明日はふたりで会場に乗り込み、婚約披露パーティーをぶち壊してやろうじゃないか!」

「ええええっ!?」

結局、果てしなく勘違いされた父親のせいで私は明日のパーティーに強制参加させられることが決定してしまった――



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 その後の私は忙しかった。父は1日、仕事を休む宣言をして明日のパーティーに出席する為の準備に奔走した。

 私は着ていくドレスなどありませんから、参加したくないですと土下座までしたのに父は一切聞き入れてはくれなかった。パーティ用のドレスなら腐らせてしまう程衣裳部屋にあるので何も困ることは無いと言われ、連れていかれた部屋には言葉通りにずらりとドレスが並べられていた。
 そしてメイド達にコーディネイト? してもらい、私の着るドレスが決定してしまったのだった。


 そして――

「あ~疲れた!」

ようやく明日の準備から解放された私はベッドに身を投げ出した。ごろりと転がり、壁に掛けられた時計を見れば既に時刻は夜の11時を過ぎている。

「全く……呪いは解けたから、もうギルバート王子のことはいいのに……」

そして、なぜか唐突に魔法使いのことが頭に浮かんだ。

「そういえば魔法使いはどうしたんだろう……?」

あの夜、別れてからただの一度も彼を見ていない……と言っても、たった一日しか経過していないけれども。

「ふぅ……」

ベッドから降りると、部屋の窓を開けた。

「綺麗な月……」

窓から見える月は満月から少しだけ欠けている。大きな月を見上げていると、魔法使いのことが思い出されてならない。

「魔法使い……今頃、どうしているのかな……私がサファイアに戻れたから、もう用は済んだってことなのかな?」

でも、何故か予感がした。……ひょっとすると、魔法使いはもう自分から私の前には姿を現さないのではないだろうか?

彼は……今も城の地下深くにある何処かに囚われているのだろう。

魔法使いのことを考えると、少しだけ胸が痛んだ――