「クゥ〜ン……」

 私はわざとしおらしい鳴き声を出しながら、クロードが待つ部屋の中へとゆっくり入っていった。

「やぁ、来たね。待っていたよ。こっちへおいでよ」
 
 ベッドの上には身体を起こしたクロードが優しい笑顔で私を見つめて手招きしている。
 すると、ジャックが心配そうにクロードに声を掛けた。

「クロード様……大丈夫なのですか? あんな熊みたいに大きな犬を部屋に招き入れるなんて」

 何? 熊ですって? こんなに白い綿毛が可愛らしいのに!? だったらせめて熊ではなく、シロクマみたいと言って貰いたい。

「大丈夫だよ。それじゃ、僕とあの犬だけにしてもらえるかな?」

 クロードの言葉に驚くジャック。

「ええ!? クロード様! 本気で仰っておられるのですか? もし、万一のことがあったら……!」

「それなら大丈夫だよ。ほら、見てご覧。あんなに嬉しそうに尻尾を振っている犬が人を襲うと思うかい?」

 クロードが私を指さしている。え? 尻尾を振っている!?
 思わず後ろを振り返ると、確かに私はちぎれんばかりに尻尾を振っている。

「た、確かに言われてみればそうかもしれませんね……」

「ね? これで分かっただろう? ジャック」

「はい、分かりました。では私は席を外しますね」

 ジャックは頭を下げると、部屋を出ていった。チラリと何やら最後に私に視線を向けていったのが何より気になるけれども……。

 
 パタン……

 扉が閉じられて部屋の中に私とクロードだけになった。

「ありがとう、君がいなければ僕は大変な目にあっていたよ」

 突然クロードが私に声を掛けてきた。

「ワン?」
(え?)

「君がどうしてあの場にいたのかは謎だけど……僕の命の恩人だってことは理解出来たよ。ありがとう」

 そして私に笑みを浮かべるクロード。

「クゥ〜ン……」
(クロード……)

「もし、行くあてがないなら僕のペットにならないかい? 幸い、僕は犬アレルギーは無いからさ」

「ワン? ワワン?」
(え? それって?)

 何だろう? クロードの今の言葉……何故かすごく意味深な台詞に聞こえるのは私の気のせいだろうか?
 ひょっとして、クロードは私がミルクだということに気付いているのだろうか……?

「ワオンワオンワオン」
(ハハまさかね〜)

「それじゃ、君の名前を付けようかな……う〜ん……そうだな。ホワイトって名前にしよう。真っ白な君にピッタリの名前だよ。宜しく、ホワイト」

「ワオン! ワオン!」
(ええ! よろしくね!)

 私は尻尾がちぎれんばかりに振って返事をした。


 こうして私は今日からミルクという名の子猫ではなく、ホワイトと言う名の巨大な犬としてクロードの下で暮らすことが決定した――