結局、庭師さんは『シルフィーがあれば……』と言う謎の言葉を残したまま野菜の収穫を終えると去ってしまった。


「う〜ん……『シルフィー』ねぇ……? 一体何のことかしら……?」

 木の枝にとまり、ホウホウと鳴きながら考えていると突然目の前にあの魔法使いがパッと現れた。

「こんにちは、サファイア。遊びに来たよ」

「ホーウッ!!」
(キャーッ!!)

 私のよく通る声が青い空に響き渡った――



「ちょっとぉっ!! と、突然目の前に現れないでよ! 驚くじゃない!」
 
 ツンツン突きながら魔法使いに文句を浴びせる。

「ご、ごめん! 驚かすつもは……い、痛いってば! お願いだから、突っつかないくれないかなぁ!?」

 魔法使いは必死で訴えてくる。

「冗談じゃないわよ! 寿命が縮んだらどうしてくれるのよ!」

 そこで私はハッとなった。

「え……? ちょ、ちょっと待って……。もし、万一呪いが解けなくて一生フクロウのまま生きなければならくなったとしたら…‥? フクロウの寿命って一体何年だったかしら!?」

「あ、それなら安心していいよ。フクロウは意外と長寿だからね。サファイアは小型のフクロウで大型に比べると寿命は短いけど、それでも後15年位は生きられるはずだよ? どう? 嬉しいだろう?」

 妙にフクロウの寿命に詳しい魔法使い。

「ふ~ん、そうなのね。良かった。後15年は生きられるのね……って違ーう! 何それ? 15年? 人間だったらもっともーっと長く生きられるでしょう!?」

 あまりの言葉にキレる私。

「だけど蛙の姿だったら恐らく10年なんて生きられないよ? それに比べたら長命なんじゃないかな?」

「はぁ~っ!? 800年も生きている人に言われたくないわよ!」

「ひぃぃぃぃ! い、痛い! やめてくれよ~っ!!」

 そして私は怒りにまかせて、連続突き攻撃を開始するのだった――
 


**

 ある程度魔法使いを痛めつけた? ところでようやく落ち着いた私。

「ところで、さっきここへ来たとき……貴方、何て言って現れたかしら?」

 ジロリと魔法使いを睨みつけた。

「うん、遊びに来たよって言ったんだけど?」

 しれっと答える魔法使い。

「あのねぇ! こう見えても私は忙しいの! どうして私が貴方の相手をしなければいけないのよ!」

「まぁまぁ……そんなこと言わずに。サファイアだって意思疎通出来る僕と話が出来るのは嬉しいだろう?」

「別に嬉しくも何ともないけど……。それより私が何故この身体に憑依してしまったのか理由は分かったのかしら?」

 ヘラヘラしている魔法使いに軽蔑の目を向けた。

「あ、ごめん。まだ調べていなかったよ」

「はぁ!? 何それ! 何で悪びれもせずに言ってのけちゃうの? 信じられない!」

「ごめん、ごめん。お詫びと言っては何だけど、呪いを解く以外なら何でも……どんな願いでも聞いてあげるよ? 何しろ僕は偉大な魔法使いだからね?」

 魔法使いは両手を広げて得意げに言う。だけど……呪いを解くことは出来ないなんて最悪だ。

「分かったわ、なら私のお願い聞いてもらおうかしら?」

「うん、何かな?」

「『シルフィー』って何のことか教えてくれる?

「え……?」

 魔法使いの顔色が変わった――気がする。