「コラーッ! インチキ魔法使い! 戻ってきなさいよー! 私が自力でこんな高い木の上から降りられるはずないでしょーっ!!」

 空に向かってケロケロと恨みがましげに訴えていると、突然強い風がビュウッと吹いてきた。そして危うく吹き飛ばされそうになる蛙の私。

「キャーッ! と、飛ばされる! 落ちるっ!」

 必死で吸盤の着いた前足?で木にすがりつくも無惨に風に飛ばされる私。
 そして真っ逆さまに地上に向けて落ちていく。

「いやああああっ!! お、落ちるーっ! 死ぬっ!!「」
 
 酷いっ!魔法使いの奴め! こんな……こんな蛙の姿のまま死んじゃったら……呪ってやる! 毎晩枕元に立ってケロケロ鳴いてやるぅっ!!

 思わずギュッと目をつぶったその時……。

 ふわりと私の身体が宙に浮き、静かに地面に下り立った。

「え……? な、何今の……?」

 すると、何処からともなく魔法使いの声が聞こえてきた。

『ごめん、サファイア。笑いを堪えるのが精一杯で、君を木の上から下ろすのを忘れていたよ。ついでに止めていた時間も元に戻しておいたよ』

「え!? これって貴方の仕業だったの? だったらもっと丁寧に下ろしてよ! 死ぬかと思ったでしょう!? それに止めていた時間って一体どういう意味よ!」

 姿が見えず、声だけ聞こえる魔法使いに文句を言う私。

『文字通り、時を止める魔法さ。君と2人だけで話す時間が欲しかったからね』

 何? この魔法使い……時間も自由に操れるの? だったら……!

「だったら何で私の呪いを解く魔法は使えないのよ!!」

 しかし、彼はそれには答えない。

『あ、そろそろ誰か来そうだ。それじゃ引き続き蛙ライフを楽しんでおくれ。僕としては今の君がとってもチャーミングだからずっとそのままでいてもらいたいくらいだけどね』

 無責任な言葉を言う魔法使いにキレる私。

「はぁ!? 冗談じゃないわよ! 誰がいつまでも蛙のままでいるっていうのよ! 話はまだ終わっていないんだから姿を見せなさいよ!!」

『それじゃ今度こそ僕はもう行くね。元気でね〜』

 魔法使の声はどんどん遠くなっていく。

「ケローッ!!」
(こらーっ!!)

 思わず叫んだ時、私は再び自分の声が蛙に戻っていることに気付いた。

「ケロケロケローッ!」
(そ、そんなーっ!)

 再びショックで声を上げた時。


「あ! いたいた蛙さん! 何処へ行っていたんだい? 随分探したんだよ?」

 突然真上から声が降ってきたので、驚いて上を見上げた。

「おまたせ、蛙さん。とっておきの餌を持ってきて上げたよ?」


 そこには先程の無責任魔法使いとは違い、爽やかな笑みを浮かべているクロードと庭師さんの姿が。

 そして彼の手には何やら紙袋が握りしめられていた――