「お、おじいちゃんて……」

 魔法使いは私の言葉がショックだったのか、ぐらりと身体をよろめかせ……ゴツンと木の枝頭をぶつけた。

「あ、イタタタタ……」

 彼はサファイアを蛙に変えた張本人。だから敢えて「大丈夫?」なんて言ってあげないことにした。

「確かにおじいちゃんて言われる年齢かもしれないし……それに君は可愛い蛙だからまぁいいか?」
 
え? 可愛い? 今、この魔法使い……私のことを可愛いと言ったの?

「ま……まぁ確かに自称、偉大な魔法使いなんて言ってるくらいだから長生きする魔法の使い方だって知っているかもしれないわよね……。それじゃ次の質問をしてもいい?」

「勿論だよ。当然君には話を聞く権利があるからね」

 大真面目な顔つきで頷く魔法使い。

「さっき、君の邪な心が再び人の言葉を話せなくしてしまったって言ってたけど……邪な心って何よ? 私は純粋な心しか持っていないけど?」

「おやぁ? 果たして本当にそう言い切れるかな?」

 「え……?な、何よ……」

「自分でも気付いていないなら、親切で偉大な魔法使いである僕が教えてあげよう。君は自分が本当は人間で、呪いによって蛙にされてしまったのだと伝えるつもりだっただろう?」

「そ、そんなの当然じゃない! だって切実な問題なんだから!」

 ケロケロと喉を鳴らしながら抗議する私。

「あ、あまつさえ……くっ! き、君は……カハッ! の、呪いを解くには……グフッ! 人から感謝の言葉を貰えれば……も、元の姿に戻れると……ククッ! つ、告げるつもりだっただろう……アーハッハッハッ……ヒィ〜く、苦しい……た、頼むから喉を鳴らすのはやめてくれないかなぁ〜!!」

 魔法使いは我慢の限界とでも言わんばかりに笑い出す。

「な、何よっ! 仕方ないでしょうっ!? 蛙の本能だか、何だか知らないけれど勝手に喉がケロケロ鳴ってしまうんだから!」

 再びケロケロ喉を鳴らして抗議する私。

「だ、駄目だッ!! く、苦しい……わ、笑死するぅ〜……!」

 そして少しの間、魔法使いは笑い転げるのだった――



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「ふ〜……苦しかった……」

 再び眼鏡を外して、笑い過ぎの涙を拭う魔法使い。
 くぅ……な、何というイケメンぶり……! しかも妙な色気まである。

 魔法使いは涙を拭うと、再び眼鏡を掛けてしまった。

 あ〜あ……ほんっとに勿体ない。超絶美形の顔がまた隠されてしまった。

「君といると、本当に飽きないよ。どう? このまま蛙でいるっていうのは?」

「はぁ!? 突然何を言い出すのよ! 私は人間よ? どうして蛙のままいられるのよ!」

 この魔法使い、ついに笑いすぎて頭がイカれてしまったのだろうか?

「そうか……残念だなぁ。ずっと蛙の君と一緒に暮らしてもいいかな〜なんて思ったんだけど……」

 腕組みする魔法使い。

 まるでプロポーズのような言葉に耳を疑う。
 え? もしかして、それって私のこと……?
 だとしたら、このまま別に蛙のままでも……。

「なんてあるわけ無いじゃーん! じょ、冗談じゃないわよ! 私は人間! 蛙のまま人生を終わるわけにはいかないのよ!」

「確かに君の言うことも一理あるね……仕方ないか」

「ねぇ。だったら魔法で私の呪いを解いて頂戴よ」

「ごめん、無理」

「は?」

あまりにも軽いノリで即答してくる魔法使いに私が軽い殺意を覚えてしまったのは……うん、仕方がない――