父王に嫁が欲しいと申し出たのだから喋れても不思議はない。

よくよく考えれば彼に人と同等の知能があることは明白で、何かしら目的があって人間を嫁に迎えようとしている。

銀の狼に嫁ぐものだと考えていたため、ルーナの思考はギャップに追いつかない。

ふさふさの尻尾が左右に揺れているというのに、言葉数が少なくその孤高な生き様がよくわかった。

(追いかけなくては)

ふと、足元を見て目が丸くなる。

土にうっすらと足跡がついており、丸みのあって人間のものと異なっていた。

それを見てルーナの口元が歪みそうになるが、なんとか堪えて咳払い。

「お待ちください、旦那様!」

足場の悪い森でもルーナの浮き立つ気持ちによって足取りは軽い。

これは生け贄といっても過言ではない獣への嫁入りだ。

だというのにルーナの目はキラキラと輝いており、高揚感を隠しきれていない。

(これからどうやって暮らすのかしら?)