この想いはリアムが相手だから芽生えた。

種族の壁なんてものは二人の間に最初から存在しなかった。

ルーナの愛の告白に、リアムはしばらく黙り込む。

「……旦那様? きゃっ!?」

「しっかり捕まってろ」

小人にもらったローブを噛み、リアムは背中にルーナをのせる。

そして騎士たちの静止をものともせずに空へと飛びあがり、走り出す。

風を切る速さにルーナはワクワクして笑顔を浮かべながらリアムにしがみついた。

空から白い雪が降りだしており、もう寒冷期は目の前だと教えてきた。

それからリアムは辺境伯の屋敷にある広い庭に着地する。

屋敷の中からルーナの逃亡を知った父王が飛び出してきて、バスローブ姿で叫ぶ。

「ルーナ! 頭を冷やせ! 戻ってくるんだ!」

「いいえ! 私は戻りません!」

父王の叫びにルーナは腹の底から声を出す。

その声はもともとルーナのもつハツラツさがよく出た澄んだものだった。

「私! 旦那様を愛してるんです! だからこの結婚は私が望んだことなのです!」

「なにを……」

「今は許していただけなくても、私は諦めません! 父上と母上のように心から愛し合った夫婦となってみせます!」

ルーナを含め、7人の姫君を産んだのち亡くなった母。

そのときの父の深く悲しむ姿を鮮明に覚えている。

母の身分はもともと男爵令嬢であり、王妃となるには低い身分だった。

その壁を乗り越え、愛し合う二人にルーナは強く憧れた。

待ち受けるは政略結婚かもしれない。

だが二人のように愛し合えたらとずっと夢を見ていた。

今はそれに負けないほどにリアムと愛し合えると確信を持っていた。