ルーナはそれを見上げて、強張っていた表情が柔らかくなるのを感じる。

「旦那様……」

リアムが地面に着地すると、その衝撃に騎士たちはよろけて倒れていく。

ルーナは騎士たちを突き飛ばして、一心にリアムへと手を伸ばし抱き着いた。

「なにも出来なくてごめんなさい。旦那様が苦しんでいたのに」

「良い。……遅くなってすまない」

大きな口元に頬を摺り寄せると、湿った黒い鼻と銀の毛並みがルーナをくすぐった。

顔を上げるとトパーズとルビーの瞳が涙を流すルーナを見つめていた。

「もう痛くはありませんか? 縄はどうされたのです?」

「痛くない。あれは魔獣をとらえるためのもの。……オレは魔獣なんかじゃない。ただの」

唇をよせ、憂いのこもった息を吐く。

「ただ妻を愛する一人の男だ」

そんな甘美なささやきがあってよいのか。

悪い魔獣を縛るものであり、リアムは魔獣と呼ばれる呪いを捨てた。

畏怖され、いつのまにかその通りにフェンリルとなって生きていた。

リアムの本音にルーナはおだやかに微笑んで、涙を拭う。

「私は旦那様といたい。旦那様を愛しているんです」