夜になり、就寝のために建物二階の寝室で窓を開き、空を見上げる。

リアムの左目に似た月が輝いており、焦がれて手を伸ばした。

決して妻とはいえぬ状況にもどかしさを感じた。

真綿で包み込むよう、リアムはルーナを大切にしてくれる。

それだけでは物足りないと欲を抱くのは我が儘だと気持ちを抑え込んだ。

「冷静にならないと」

リアムに妻にと望まれて嫁いできた。

その喜びに浮かれて肝心なことに気づいていなかった。

あくまで王女を嫁にすることがリアムの目的であり、ルーナを求めてのことではない。

もしルーナが名乗り出ず、下の姫のなかから選ばれていたら?

(……いやだ)

かわいい下の姫たち。

一番下の姫を生んだのち、母は死んでしまった。

母親代わりのつもりで姫たちを大切にしてきたが、その姫たちにも譲れないと胸を痛めた。

身をていして嫁ぐことを決めたわけではない。

むしろ責任逃れで、残ったものすべてを妹姫たちに投げつけた。

(王女でなかったら出会えなかった)

今さらながらに後ろめたい気持ちだった。

「眠れないのか?」

窓から下をみると、月明かりに照らされた狼のリアムが外にいた。