ジェットコースターに乗り終えた後、総悟と桃花は人気の少ない木の下で休憩することになった。
 新緑の隙間から陽気な日差しがチラチラと差し込んできている。
 木陰にいるけれども、動き回っていたからか全身が少しだけ汗ばんでいた。
 総悟が自動販売機でジュースを買いに行ってくれているため、桃花は一人でベンチに座って待っていた。

(まだ夏になったばかりなのに暑い)

 桃花が火照った頬を鎮めようと手で仰いでいると、ひんやりした何かが背後から頬に押し当てられたため、身体がビクンと跳ね上がった。

「きゃっ……!」

「はい、桃花ちゃんの好きなピーチジュース」

 振り仰ぐと、総悟が悪戯に成功した子どものような笑顔を浮かべながら缶ジュースを両手に持って立っていた。

「もう、社長、こんな子どもっぽいことはしないでください!」

「ちぇっ、最近の桃花ちゃんはすぐ俺を子ども扱いするんだから」

 桃花が腹を立てると、総悟が拗ねた調子でベンチに腰かけてくる。
 彼からジュースを渡されると、彼女はさっそく口につけて飲み始める。少しだけとろみのある甘い果汁と桃の果肉が口の中で同時に蕩けてきて、喉も心も潤うようだ。

「それにしたって、面白かったね」

「……そうですか……」

 目をキラキラさせながらはしゃぐ総悟だったが、どちらかと言えばインドア派の桃花はぐったりしていた。
 とはいえ……

(私がわりと子どもっぽいものが好きなのを知ってるから、連れてきてくれたのよね)

 彼の思いやりが伝わってきて、なんだか嬉しくて心の奥がムズムズした。

「子ども時代に気持ちが戻ったみたいだし、桃花ちゃんも楽しそうで本当に良かった」

 再会した時、硬い表情だった彼の表情が和らいでいるのを見て、桃花の心も晴れやかになっていく。

(総悟さん、本当に楽しそう)

 仕事をしている際にはキリっとしているが、少年のような一面をのぞかせてくると、なんだかギャップを感じて新鮮だ。

(それに……)

 桃花はクスリと笑んだ。


「この場所なら、子どもを連れてきても大丈夫だなって思っちゃいました」


 そこまで告げて、桃花はハッと口を噤んだ。

(いけない。総悟さんの前で子どもの話をしてしまった)

 二年前のことを思いだしてしまい、桃花はハラハラしてしまう。
 当時、部下から「子ども」という単語が出ただけで、あまり良い反応はしていなかったような気がする。

(どうしよう、総悟さんの機嫌が悪くなったら……)

 桃花がオロオロしていたら、先ほどまで明るかった総悟が静かになった。

(やっぱり不機嫌になってしまった?)

 彼女は恐る恐る彼の様子を覗く。