桃花は総悟から休日デートに誘われた。
 獅童を見ないといけないので一度は断ろうとしたのだが、総悟に結局押し切られてしまった。

(だけど、獅童を連れて行くわけにもいかないし)

 土曜日も理由があれば子ども園は預かってくれる。けれども、私事のために子どもを園に預けるのは、園の先生たちや我が子に対して申し訳ない。
 そのため、育ての親代わりでもある父方の祖母に相談したら、「小旅行がてら曽孫の獅童のことを見ておくよ」と、電車を乗り継いでわざわざ獅童の面倒を見に来てくれることになったのだ。
 ふわふわのショートカットの祖母が、曽孫のことを抱っこしたまま、ふんわりと笑いかけてくる。

「桃花ちゃん、獅童君はちゃんと私が見ているからね」

「おばあちゃん、ありがとう」

 桃花は祖母に笑い返すと、獅童の小さな手にたっちした。

「獅童、ひいばあばと仲良くね」

「うん!」

 そうして、桃花が出掛けようとしたところ、祖母が心配そうに顔を覗きこんでくる。

「桃花ちゃん、相手の男の人、獅童のお父さんなんじゃない?」

「え」

 図星をつかれてドキッとした。

「せっかくだし、獅童のことだったり、ちゃんと事情を説明してみたらどう?」

 祖母が優しさで告げてくれているのは分かっているのだけれど、桃花はうんとは頷けなかった。
 恋人でも何でもない男の人の子どもを妊娠したと話したら驚かれるだろうから、総悟とは事情があって別れたと説明していたのだ。
 桃花は祖母の顔を直視できないまま答える。

「ううん、子どもは……その……」

 ……欲しくなさそうだった。
 
 だけど、獅童を前にして言うのは憚られた。

「獅童のパパも、こんなに可愛い我が子の顔を見たら、すっかり絆されるんじゃないかね?」

「もしも、機会があったら、そうしてみるよ。ありがとうね、おばあちゃん。じゃあ、行ってくる」

 そうして、玄関を抜けてマンションのエントランスから外に出た。
 晴天で日差しが強い。
 総悟から外を歩くと説明されていたので、今日の桃花はアイシーピンクのペプラムジレとスキニーデニムにウェッジソールのサンダルを合わせていた。

「総悟さんとの待ち合わせの場所に行かなきゃ」

 うっかり総悟と獅童が顔を合わせたら良くないからと、自宅マンションの場所は教えていない。

(総悟さんは社長だから、そのうち住所ぐらいはバレそうなものだけど……竹芝副社長と二階堂会長が誤魔化してくれてるみたいね)

 総悟はわりと潔癖な性質だし不正は嫌う。わざわざ社員の個人情報を隠し見る趣味はないはずだけれど……

(私の昔の履歴書が総悟さんのマンションにはあったし、油断は禁物ね)

 桃花はわりと慎重だった。