「梅小路さん」

「竹芝副社長」

 竹芝が温和な表情を浮かべながらエレベーターから降りてきて、桃花の前へと近づいてくる。

「ああ、総悟は電話中なんですね」

「はい」

 すると、竹芝が穏やかに話を続けてくる。

「梅小路さんが看病をしてくれたおかげで、二年ぶりに総悟の機嫌が良くて、おかげ様で久しぶりに穏やかな幹部会を過ごせていますよ」

「そうなんですね」

 幹部会とは文字通り、会社内の幹部たちが集まって話し合いをする場だ。
 社長の専属秘書である桃花は、幹部会のセッティングなんかはするが、参加自体はできない。議事録等は他の幹部が持ち回りでおこなっているらしい。だから、実際の様子がどうなっているのかは知らないが、竹芝曰くこの二年間は殺伐としていたのだという。

(私のおかげと言われると違和感があるけれど……)

 確かにあのマンションでの一件以来、総悟は昔の明るい雰囲気を徐々に取り戻しつつあった。

(私に対しての嫌味や意地悪もだいぶなくなってきたし……)

 竹芝が普段以上に穏やかな笑みを浮かべながら話し掛けてくる。

「そのう、セクハラ発言になったら大変申し訳ないのですが、梅小路さん、二年前もしっかりなさっていましたが、この二年でずいぶん大人の女性らしくなられましたね」

「ええっと、そうでしょうか?」

「はい、以前よりもしっかりされていますが、雰囲気が柔らかくなったと申しますか」

 桃花の心臓がドキンと跳ねる。

(それは、もしかすると子育てをしているからかも?)

 以前は真面目一辺倒だった桃花だが、子どもに対してまでキリリと接するわけにもいかず、というよりも、ふにゃふにゃ柔らかくて愛らしい我が子と接していたら、自然と頬が緩んでしまって、穏やかで柔らかな雰囲気になってしまうのだ。

(……母親になったからでしょうか、なんて言えないわね)

 桃花がそんなことを考えていたら、なぜだか目の前の竹芝の顔色がみるみる青褪めていく。

(どうしたの……? はっ、まさか竹芝副社長、具合が悪いんじゃ!)

 すると……