総悟が倒れてしまったため、急いでスタッフを呼んで、医務室に運んでもらった。
 診てくれた産業医曰く……

「過労……ですか?」

 桃花は思わず声を上げた。
 産業医が続ける。

「ええ、二階堂社長、この二年間まるで別人になったかのように働いていましたからね。あんなに昔は、海外みたいに余裕を持って働こうって話してらっしゃったのに……そりゃあ、三日間徹夜だったんなら、こうなっても仕方がない。まだお若いですし、寝たら治りますよ」

「そうなんですね、寝たら治るんだったら良かったです」

「梅小路さんが帰ってきたし、ますます元気になりますよ! そういえば、以前、海外から訪問していた取引先の方が倒れたことがありましたね。梅小路さんと副社長時代の二階堂社長が連れてきてくれたのを覚えていますよ!」
 
 桃花は安堵してほっと胸を撫でおろすと同時に、産業医から名前を覚えられていることに驚いてしまった。

「先生はやはり記憶力が良いのですね、一社員である私のことを覚えてくださっていて嬉しいです」

 すると、気さくそうな雰囲気の産業医が続ける。

「いやあ、社員一同、梅小路さんの帰還を……」

 突然口を噤んだので、どうしたのだろうと思えば……
 普段は温和な竹芝副社長が殺気を放っていた。

(何……?)

 桃花もびっくりしてしまう。
 竹芝が柔和な笑顔で産業医に詰め寄った。

「医師は患者の個人情報を守らないといけないのでは? 守秘義務はどうなっていますか?」

「いやあ、職員の個人情報保護は、守秘義務とは関係なくてですね……って、いえいえ何でもありません」

 だんまりになった産業医を尻目に、竹芝が桃花に向かって声をかけてきた。

「それでは、梅小路さんも着いてきてください」

「……どこにですか?」

「そんなの決まっています。総悟の自宅マンションです」