そこで桃花はハッとする。

「獅童、大好きよ」

「うん」

 にこにこ笑う獅童を見ていると、桃花の心が落ち着きを取り戻してくる。
 時々湧き上がってくるような、総悟に対する言いようのない想いを忘れられるのは、獅童がそばにいてくれるからだ。

(獅童が生まれてきてくれて本当に良かった)

 だけど、桃花には少しだけ心配なことがあった。
 それは……

(赤ん坊の頃は、髪の生えていない子どもだっているぐらいだから、髪の色は誤魔化せたけれど……)

 獅童がすくすくと育つに連れて、髪の色が他の子に比べると明るいのが目立つようになってきていたのだ。
 正直、今いる場所は田舎なのでかなり目立ってしまう。
 だから、そろそろもっと人の多い場所に出なければならないのではないかと、桃花は検討しているところだったのだ。

(都会の方が色んな見た目や行動の子が多いから、こっちみたいに、すごく目立つことはないと思う。それに、獅童がまだ小さい内に、ずっと住む場所を決めた方が無難よね)

 それに……

(二年前に一生懸命貯めていたお金も底を尽きはじめている……年金暮らしのおじいちゃんとおばあちゃんのことを、ずっと頼るわけにはいかない)

 とはいえ、両親が残してくれる遺産に手をつけるのは、やはり気が引ける。

(お父さんとお母さんのことだから、孫の獅童のためなら「使いなさい」って言うと思う。だけど、私と獅童のお金は、私がちゃんと稼がないといけない。両親のお金に手を出すのは、万が一私が健康を損ねたりして、獅童のためのお金を稼げなくなってしまった時なんかで良いわ)

 だから、そろそろまた仕事を探さないといけない。
 けれども、初めての土地に住むのはかなり勇気がいる。
 だとしたら、少しでも慣れている場所で再び働いた方が良いだろう。
 そうなれば、以前住んでいた都会の街が候補に上がるのだが、万が一、総悟に遭遇してしまったのだとしたら……

 桃花は獅童の手をぎゅっと強く握った。

(総悟さん……)

 桃花は獅童が寝静まった後に、ネットサーフィンをよくしていた。
 二階堂グループの御曹司である二階堂総悟の動向は、まるで芸能人であるかのように取りざたされることもあるぐらいだ。
 とはいえ、総悟自体が露出を好んでいないのか、桃花と出会う頃の写真しか掲載されていないし、SNSだってやっていないし、プライベートな内容は絶対に外には出さないようにしている。
 だから、総悟がどんな風に過ごしているのか分からない。
 だけど、最近ネットニュースのトップを見て知ってしまったことがある。

(総悟さんは二階堂グループの副社長から社長に就任していた)

 元々若き副社長だったのだが、いよいよ社長になって、ますます注目の人物になっていたのだ。