総悟は自分自身に焦るなと言い聞かせる。
ふと、クレーンゲームを一緒にした際の、桃花の言葉が頭の中に響いてくる。
『ええ、勿論です。過去は変えることはできません。だけど、人は間違いを起こしたとしても、ちゃんとそれから先の未来で、ちゃんとやり直せるって思うんです』
きっと優しい彼女のことだ。
総悟が何か失態を犯していたんだとしても、許してくれるに違いない。
今から挽回すれば良い。
総悟は頭の中で桃花とのやり取りを想像した。
『桃花ちゃん、何か気に障ることをしたかもしれない、ごめんね』
『分かりました、総悟さんがそういう人だって分かっていますから』
桃花がそんな風に総悟のことを許してくれる想像をすると、それだけで活力が漲ってくるようだ。
(……最近の俺のことを過去の俺が見たら、「どうしたんだよ」って笑うかもしれないな)
なんでこんなにも彼女のことばかり考えてしまうのだろうか?
答えは分かってしまっている気もするが、女性に対してこんな気持ちになったのは、生まれて初めてだから、分からないのだ。
総悟は自身の心臓に手を当てて息を吐いた。
(胸が苦しい……)
だけど、今まで抱いたことがない気持ちだから、とにかく考えても答えが出なかった。
特定の女性のことが頭を占める経験なんて、これまでにはなかったのに……
総悟はそっとポケットの上に手を当てると、桃花に渡すプレゼントへと思いを馳せる。
(ずっとそばにいて欲しいからって、こんなものを用意したりして……今までの俺だと絶対にあり得ないことなのに……)
今までだったら、この気持ちが何なのか教えてくれる人がいた。
『総悟、自分の気持ちを隠そうとせずに、ちゃんと素直に気持ちを伝えるだけで良いのよ』
だけど、もうその人はいない。
総悟の前からはいなくなってしまっていた。
だから、自分で答えを出さないといけないのだ。
もしかすると、桃花なら総悟の抱く感情が何か、一緒に考えてくれるかもしれない。
(竹芝にも「鈍い私でも分かるのに……さすがに自分で考えてください」って言われてしまったしな……)
桃花に抱いている気持ち。
仕事だけじゃなくて、どんな時でも、ずっとそばにいて欲しいという気持ち。
自分が桃花に対して抱いている感情を、総悟はうまく言葉で表現することができない。
上司や部下、身体だけの関係だとか、彼氏彼女だとか、恋人だとか……そんな言葉だけで、自分たちの関係を言い表したくはない。
「好き」だとか、そんな単純な言葉で片付けられたくない。
「桃花ちゃん、プレゼント喜んでくれると良いな」
その日、総悟は桃花のブランケットを抱きしめながら、そのまま椅子の上で眠ってしまっていたのだった。