副社長室の椅子の上、眩しい夕陽に照らされて、総悟はハッと目を覚ます。
脚を組んで腕組みをしながら、うつらうつらしていたようだ。
どうやら外を見るに、もう夕方を迎えていた。
(まずい、最近忙しいからうたた寝してたや。桃花ちゃんに怒られちゃうかも? それにしたって、懐かしい夢を見た気がする)
しばらく陽に当たっていたからか頬は熱を帯びていたが、冷房に当たっていたからか全身はどことなくヒンヤリ寒かった。
総悟が気怠げに身体を起こそうとした時、さっと影が差すと共に、ふわりと柔らかなものに身体を覆われる。
彼が頭上を振り仰ぐと、そこにいたのは……
「ああ、桃花ちゃん」
「二階堂副社長、目が覚めたのですね」
総悟が座る椅子のすぐそばに、専属秘書の桃花が背筋をピンと伸ばして立っていたのだ。
彼の頬が自然と緩む。身体の上に掛けられた白くてふわふわのブランケットへと手を添えた。
(桃花ちゃんは優しい。俺が風邪を引かないように気遣ってくれたんだろうな)
社内の冷房は意外と冷える。とはいえ、調整が難しい季節だから、温度を少しだけ上げると今度は暑くなる。だから、桃花は総悟の身体を気遣ってブランケットを掛けようと思ってくれたに違いない。
桃花の優しさがじんわり胸に染み入るようで、総悟はなんだか幸せだった。
ふわふわのブランケットの感触が、桃花の柔らかな肌を思い起こさせてくる。
(なんだか桃花ちゃんに抱きしめられているみたいだ)
酒に酔った桃花と一夜を共にしてから、もう二か月近い月日が経とうとしている。
性急に身体の関係になってしまったが、総悟は後から順番を間違えたかもしれないことに気付いた。
(どうしてだろう、桃花ちゃんには誠実な男性に見られたい)
だから、総悟なりに初心な桃花に配慮して……というよりも、彼女に喜んでもらいたくて……いいや、彼女の関心をどうにか惹きたくて、ものすごく色々なデートプランを立てて頑張っていたのだ。
正直なところ、海外の企業と取引して数件仕事を取ってくる方が簡単なぐらいだ。
総悟としては、特定の女性との交際経験がないせいで、桃花に喜んでもらうにはどうしたら良いのか考えるのに必死だったが、その日々さえも楽しく過ごせていた。
(早く仕事以外で二人きりになりたいのに。それにしたって、桃花ちゃんに喜んでもらえるかな?)
総悟はそっとジャケットのポケットに手を触れた。
後生大事に仕舞っている写真と一緒に忍ばせた、高級な黒いケース。
中に入っているのは、彼女に自分の想いを伝えた際に一緒に渡そうと思っている特注のプレゼント。