十年前。
 病院の待合室にて。
 高校二年生の時、二階堂総悟は色んな大事なものを失ってしまった。
 端から見れば軽い怪我を負った男子高校生。だけど、心の中は形容しがたいほどにぐちゃぐちゃで、もがき苦しんでいたのだった。

『俺は……』

 呆然とソファに座っていたら、目の前で何者かが総悟のことを罵りはじめた。

『どうしてお前が……!? …………!』

 相手の言葉がまるで異国の言葉のようだ。わりと語学堪能なはずなのに、それでも理解ができないぐらい、相手が何を言っているのか理解できなかった。
 だけど、突然、相手の声が鮮明に分かった。

『お前なんか、生きている価値がないのに!』

 激昂する何者かに総悟は胸倉を掴まれてしまう。
 その時……

『生まれてこなければ良かった人間なんて、この世にいるはずがない』

 二人の間に割って入ってきたのは、白いぬいぐるみを愛おしそうに抱える少女。

 まるで天使が助けにきてくれたようだと、当時の総悟は思ったのだった。