自覚した途端、胸がきゅうっと疼いた。
 今までどんな顔をして相手を見ていたのか分からなくなって、なんだか恥ずかしくなって、桃花は視線を逸らしてしまう。
 すると、副社長が労わるような声音で告げてくる。

「俺は君のことを大事にしたいと思っていて、色々と無理強いしたり急ぐつもりはない。だから、君が嫌なら今日はここまでにしておくよ」

 そうして、副社長がそばを離れようとした。

(男の人と何かをするのは初めてだから……確かにまだ怖い)

 彼はちゃんと待ってくれると言っている。
 だから、その好意に甘えても良かったのだけれど……

「待ってください」

 桃花は無意識の内に副社長の服の裾をきゅっと引っ張っていた。
 そうして、彼女は彼の顔を見上げながら伝えた。

「全てを曝け出すって宣言したのは、副社長じゃなかったんですか?」

 酒に酔っているせいもあるからだろうか、いつもよりも挑発的ともとれる言い方になってしまった。
 男性との初体験に対する恐怖以上の感情が……いいや湧き上がる衝動が、彼女を突き動かしていた。

(私は今、この人と……)

 ……結ばれたい。
 大事にされたい。
 愛されたい。

 そんな欲望が一度栓を切って溢れ出すと泉のごとく湧いて出てきて、抑制が効かなくなってしまう。
 彼女の潤んだ瞳が、一度は鎮火しかけた彼の熱情を再び呼び覚ました。
 二階堂副社長の唇が桃花の耳朶に近づくと、狂おし気な声音で告げられる。

「そんな目で見られたら……もう俺は我慢ができない」

 ギシリと再びベッドのスプリングの音が鳴った。
 二階堂副社長がジャケットを脱ぎ捨てながら、ベッドの上に乗り上げてきた。
 白いワイシャツ越しにも分かるぐらい筋肉質な体躯が露わになると、桃花は今までに感じたことのない疼きを下腹に感じた。

(あ……)

 彼女の心臓が壊れそうなぐらい高鳴っていく。
 二階堂副社長の指が桃花の頬に伸びてきたかと思うと同時に、腰の上の付近に柔らかな重みを感じる。
 彼の顔が近づいてきて、彼女と視線を合わせてきた。
 熱を孕んだ眼差しで見つめられると、彼から求められているのだと分かってしまって、緊張と同時に愛おしさがどうしようもなく込み上げてくる。

「桃花ちゃん、緊張してるんだね、大丈夫、大切にするから……」

「はい」

 彼の唇が彼女の頬に何度か優しいキスの雨を降らせる。
 唇の柔らかな感覚を感じているだけで、なんだか夢見心地になっていった。
 二階堂副社長の指が、丁寧にブラウスの釦を外していく。一つ一つ釦が外れていくと、どんどん気持ちが昂っていく。
 全てが外れた頃には、服を脱がされただけなのに、まるでどこかを走ってきたかのように、羞恥で頬が上気してしまっていた。

(男の人に裸を見せるのは初めてだから恥ずかしい……)