二階堂副社長に連れてこられたのは、ホテルの最上階にあるスイートルームだった。
 部屋には空中庭園と呼ばれる広い庭まである場所だ。
 お姫様抱っこされたまま、窓の向こうにある外に出ると、ヒンヤリした風が頬を嬲ってくる。
 ぼんやりしていた桃花だったが、徐々に意識がはっきりしてきた。

「だいぶ酔いは醒めた……?」

「ええ……」

 桃花が伏し目がちになると、瞳に色濃い影が落ちる。
 なんだか無性に身体が熱くて、汗をかいてしまっていた。
 頬に張り付いていた髪を、そっと耳にかける。

「助けていただきましてありがとうございます。だいぶ酔いも醒めてきたので、ここで失礼しようと思います。降ろしていただいてよろしいですか?」

 まだ頭の芯はぼうっとしていたし、彼の腕の中の居心地は良かった。
だけど、このまま一緒にいたら、ますます気持ちが乱されそうで、とにかく二階堂副社長のそばにいると胸が苦しくて、一刻も早く降ろしてもらいたかった。
 けれども、彼はなかなか彼女を降ろそうとはしてくれない。

「副社長、お願いですから……」

 桃花が縋るような声音で告げると、二階堂副社長が真摯な声音で問いかけてきた。

「桃花ちゃん、今日はやけに俺のこと避けてたみたいだけど、どうして……?」

「それは……」

 桃花の瞳が忙しなく揺れ動く。次の言葉に窮していると、二階堂副社長が続けた。

「昨日、キスしたの、怒ってるの……?」

 桃花の頬が勝手に赤らんでしまう。

「それは違います……」

「それじゃないんだ……だったら、なんだろう?」

 桃花の口から「写真の女性が二階堂副社長の想い人かどうかが気になる」とは言えなかった。
 キス以外の原因を考えているような雰囲気の総悟に対して、桃花はぽつぽつと口を開く。

「どうして……なんですか?」

「え?」

 イマイチ呂律が回らない中、桃花は返答した。

「だって、副社長には他に女性たちが選り取り見取りいっぱいいて……それに……」

 ……ちゃんと想い人だっているのに……

「もしかして、私と仕事するのが嫌になったから、キスしたんですか? 私に副社長に恋させて、歴代の秘書の皆のように解雇にしようと思って……」