残された二階堂副社長が桃花に向かって説明をはじめる。

「……親父のことだから、まともな桃花ちゃんを専属秘書にしたことが引っかかったんだろうな」

「そうなのですね」

 さすが一代で財を築いたといわれる二階堂総一郎だ。
 色々なことを視野に入れて、息子と専属秘書の様子を見に来たと言ったところだろう。

「それにしても、桃花ちゃん、よく俺の歴代秘書について気付いたね?」

 総悟に問いかけられ、桃花は淡々と答えた。

「ええ、引継ぎもなかったですが、残してもらったもので、なんとなく察しがつくというか……」

「へえ、察しが良いね、それにさ、桃花ちゃん、俺の元でずっと働いてくれるつもりなの?」

「え? ええ、先ほど伝えた通りです。私は二階堂副社長の専属秘書のまま働くつもりで……きゃっ……!」

 突如、二階堂副社長に抱き寄せられてしまい、目を白黒させてしまう。

「やっぱり桃花ちゃんは面白いな」

 すると、彼からますますぎゅっと抱きしめられた。
 頬を擦り寄せられてしまい、頬がかあっと熱くなっていく。

「ちょっ……」

 そうして、彼の頬が離れたかと思うと……
 まるで太陽のような満面の笑顔を向けられてしまい、桃花の胸がきゅんと疼いた。

(あ、この笑顔はズルい……)

 桃花の胸がドキドキして落ち着かなくなっていく。

「これからも専属秘書として、どうぞよろしくね、桃花ちゃん」

「は、はい」

 しばらく二階堂副社長に抱きしめられ、なんとなく嫌な気がしなくて、そのままにしてしまった。

(それにしても……)

 救急搬送された妊婦さんを助けたのが二階堂副社長だというのが分かったのだが……

(だとしたら、男の子に声をかけたのは副社長ということよね?)

『ちゃんとお母さんを守ってやるんだぞ。守れるのは君とお父さんしかいないんだから』

 もしも二階堂副社長が子ども嫌いなのだとしたら、そんな言葉を掛けることはないのではないだろうか?

(二階堂副社長は子ども好き……だけど、この間は子どもは無理して必要ないって話していて……)

 それに、先ほどの会長と副社長の会話の内容が気になっていた。

(確かにあの時の事故って話してたわよね……)

 桃花の両親の事故のことだろうか?
 それとも二階堂家に関わる別の事故があるのだろうか?

(なんだろう……何か引っかかる……)

 そう言われてみると、秘書課の竹芝部長と会話した際に、「元々総悟が桃花を秘書にしたがっていた」と話していたはずだ。

(なんだろう?)

 桃花は嬉しそうにしている二階堂副社長の顔を見る。

「桃花ちゃんを専属秘書にできて本当に良かった」

 桃花の胸が再びきゅんと疼いた。
 ドキドキと高鳴る心臓を抑える。

(もしかして私たちは元々どこかで出会っているの……?)

 気になるけれども、なんとなく二階堂副社長には尋ねることは出来なかった。


 そうして、彼のことが気になる日々を過ごしていたら……


 ……私たちの人生の転換期ともいえる出来事がついに起こってしまうのだった。