桃花はゴクリと唾を飲み込む。拳をぎゅっと握った後、口を開いた。

「帳簿データには改ざんの後が残ったり、文書も自身の都合の良い内容に書き換えられたりしている形跡が残っていました。おそらくですが、社内でも不正を働いたり、問題のある人物をわざと近くに呼んだのだと思います」

 二階堂総悟が目を見開く。
 二階堂会長が桃花に向かって告げた。

「だったら、梅小路さん、君も何かしら問題がある人物だと、そう考えて良いのかな?」

「それは……」

 自分自身のことを窮地に追い込むような発言だっただろうか。
 確かに仮説が正しければ、桃花も問題児だということになってしまう。

「父さん、桃花ちゃんは別だよ!」

 総悟が桃花を抱き寄せた。

「ええっと、二階堂副社長……?」

 何かと誤解を受けそうな感じになっているのだが、気のせいだろうか?

「この子、色んなことに気付くんだけど、知らぬ間に周りに敵を作っちゃうタイプだから、俺が守ってあげなきゃって思ったんだ」

(はい……?)

 桃花は内心ツッコミを入れてしまった。
 他にまともなフォローはなかったのだろうか?

「他の人が視えてない面白いことに気付くタイプの女性なんだ。だから、今までの奴らとは違うんだ。それに、この子はあの時の事故の……」

 二階堂副社長の発言を耳にして、二階堂総一郎会長が眉を顰めた。

(あの時の事故……?)

 ……ドクン。
 桃花の心臓が跳ねる。
 事故といえば、両親が交通事故で亡くなった事故のことを思いだす。

「総悟、お前はそれで良いかもしれないが……」

 二階堂会長が桃花のことを見据えた。

「梅小路さんはどうだね? こいつの専属秘書は疲れるだろう? 私の方が会長で権限も強い。君が辞めたいんだったら、すぐに辞めてもらっても良い」

「自分の考えで、二階堂副社長は悪くないって思ったんです。それに、二階堂副社長の元で過ごせば、自分が成長できるような気がして……」

 すると、今まで堅苦しい表情を浮かべていた会長が、柔和な笑みを浮かべる。
 先ほどまでの雰囲気とは打って変わって、まるで別人のようだ。

「そうか、なら良かった。総悟の言う通り、面白い女性が専属秘書になったようだ。これからも総悟のことを頼んだよ」

「ええっと……」

 桃花が戸惑う中、二階堂会長は立ち去っていく。
 そうして、彼はふっと穏やかな笑みを浮かべた。

「あの子のことを思いだしたよ、それじゃあ」

 そうして、二階堂会長はその場を去って行った。

(あの子って誰……?)

 さっぱり見当がつかなかった。