桃花は総悟の視線から目を離すことができない。
そうして、彼が再び桃花の手にうやうやしく口づけると力強く告げた。
「君だけを愛している。心ごと俺を抱きしめてくれたのは君だけだった。愛してる、桃花、未来永劫、俺には君だけだ」
熱を孕んだ眼差しに射抜かれる。
桃花の瞳から涙が溢れはじめる。
「私もです、総悟さん」
その時、扉の向こうから、獅童が姿を現わした。子ども用のタキシードを身に着けている。
「まま! きれい!」
「ありがとう、獅童」
そうして、獅童が今度は総悟の方を振り向いた。
「ぱぱ!」
「なんだよ、獅童!」
総悟が嬉しそうに息子・獅童を抱きしめると、その場で立ち上がって高い高いをはじめた。
(あんなに子どもなんて欲しくないって話していた総悟さんが……)
この数か月で、さらに父子の仲を深めたようだった。
すごく嬉しそうに我が子のことを抱きしめている。
そんな父子の姿を見て、これまでの日々を思い出して、なんだか胸がぎゅっとなった。
桃花は白いレースのハンカチで涙を拭う。
三人で和気あいあいとしていると――
「時間です」
三人の前に神父が姿を現わしたので、控室から離れた。
教会の荘厳な扉がゆっくりと開かれると、眩い光が視界を覆ってくる。
総悟と桃花と獅童の姿を発見すると、集まった招待客が一斉に拍手喝さいをはじめた。
(皆、こんなにいっぱい来てくれたのね……)
二階堂会長、桃花の両親の遺影をそれぞれ持った祖父母たち。
竹芝一家だけでなく、社員の皆も集合していた。
皆の嬉しそうな顔を見ていると、桃花の頬も自然と緩む。
総悟に抱きかかえられた獅童も嬉しそうにはしゃいでいる。
その時。
ふと、総悟が空を見上げると、タキシードのポケットに手を触れた。
「姉さん……俺は彼女のことを愛している。愛してるんだよ……姉さんが見守ってくれていたおかげだ……これから姉さんの分も幸せになるよ」
とても小さな声で聴きとることが出来なかったけれど、今度は桃花にも聞こえる声で語り掛けてきた。
「これからは、公私ともに俺を支えてくれるって信じてる。これからは仕事の時も私生活でもずっと一緒だよ。俺が君たち二人を丸ごと愛してあげるよ。絶対に俺が君から離れることはない。愛してる、桃花ちゃん」
「総悟さん」
そうして、総悟は獅童を抱えていない方の手を差し出してきた。
「さあ、行こう、桃花」
差し出された手を拒否したこともあったけれど……
「はい」
桃花は今度は素直に総悟の手に手を乗せた。
こうして――皆に祝福されながら、私たちは夫婦となって、新たな人生を歩むことになったのだ。