「大丈夫だよ、俺たちの寝室は隣だから。ほら、その子、ぐうぐう寝てるでしょう? ベッドに置いて。ちゃんと起きたらセンサーが鳴るようになって、安心だからね」
総悟が畳みかけるように説明してきた。
「私の大事な獅童に向かって、ベッドに置いてとかいう言い方は失礼だと思います」
「悪かったよ。だけどさ、起きてたら、俺と桃花ちゃんの邪魔ばっかりしてくるからさ」
「そんな社長とはお話したくありません」
「ええ……じゃあ、仕方ないから、その子にも優しくするよ。ええっと、寝かせてくれる?」
桃花はムッとしてしまったが、総悟が少しだけ困ったように口を開いた。
「まだちょっと、父親としてどう接して良いか分からないことが多いんだよ、ごめんね」
「あ……」
桃花は反省する。
(総悟さんの気持ちを分かっていなかったかもしれない)
嵯峨野との一件の際に、やっと総悟が獅童の名を呼び抱っこもできるようになったのだ。
あまり相手を急かして焦りすぎては良くないかもしれない。
「ごめんなさい。私はいつも自分のことしか考えてなくて」
「いいや、そんなことはないよ、俺も頑張るからさ、ね、桃花ちゃん」
「そう言っていただけるなら嬉しいです」
そうして、桃花は獅童をそっとベッドに寝かせると総悟と一緒に隣の寝室へと向かった。
キングサイズのベッドが中央に設置されていた。シーツや布団も綺麗な純白だ。
二人で弾力のあるベッドの上に腰かけると、桃花は隣に座る総悟に向かって声をかけた。
「総悟さん」
「ん? どうしたの、桃花ちゃん?」
「改めてお話しますが、私はずっと勘違いしてたんです」
「勘違い……?」
「はい。私、総悟さんが大事にしている写真の女性のことを、総悟さんの昔の恋人だとずっと思いこんでいたんです。そうしたら、嵯峨野さんからも『二階堂総悟には大事な女性がいる。あの男が子どもを愛することはない』って言われてしまって……」
桃花の勘違いが進んでしまった。
もちろん総悟のそばを離れたのはそれだけが理由ではないが、一因となったのは確かだった。
「嵯峨野のやつが余計なことを言ったんだなって、桃花ちゃんと嵯峨野の話を聞いてたから分かったよ。そういえば、姉さんの写真見てたんだったっけ?」
「ええ、そうなんです」
「言ってくれたら、ちゃんと教えたのに……って、それだけが原因じゃないもんね」
すると、総悟の表情がくしゃりと歪んだ。
「俺が余計なことを竹芝と喋ってたからだ。『子どもなんか要らない』ってさ。全部を嵯峨野のせいには出来ない」
総悟が両膝の上で両手を組んだ。そうして、ポツポツと過去の話をしてくれた。