夜の予定がなくなったという総悟に強引に押し切られて、なぜか桃花は帰り道を一緒に帰ることになった。

(『寄りたいところがあるから結構です』って断ったのに……)

 そもそも二階堂副社長の交通手段は自家用車だったはずなのだが……
 オフィス街の中にある地下鉄へと向かう途中のビルとビルの間にこじんまりとした建物がある。
 ゲームセンターだ。

(さすがに子どもっぽいと思われるかも……せっかく頑張って硬い印象にしているのに、それもダメになりそうだし……)

 つい最近まで大学生だったとはいえ、なんとなく二階堂副社長に知られるのは気恥ずかしかった。

「ええっと、ここから先は用事があるので、二階堂副社長はどうぞお帰りになられてください」

「ふうん、ゲームセンターに寄るの?」

 憩いの場の名前を当てられてしまい、桃花はギクリとした。なぜだか冷や汗をかいてしまう。

「ええっとですね、ゲームセンターに寄るわけでは……」

「寄らないの……?」

 総悟からじっとりとした視線を向けられる。
 しかしながら、「嘘をついてはいけません」と育てられてきたので、桃花は嘘を吐くことが出来ない。

「……寄ります」

 すると、総悟の顔を見ればご満悦な表情を浮かべている。

「桃花ちゃん、すごくお堅い見た目をしているのにさ、意外性があって悪くないね」

「ええっと……」

「俺もゲームの類は結構好きだからさ、せっかくだから同伴させてよ」

 どうにかして断りたいのだが、相手からの圧のようなものが強い。

「分かりました……」

「やったね!」

 少年のようにはしゃぐ二階堂副社長に対して、桃花は強い口調で告げる。

「ただし、私の邪魔はしないでくださいね」

「へえ、結構強気だね。良いよ、邪魔しないって約束する」

「分かりました。では、参りましょう」

 そうして、桃花はゲームセンターの扉を開く。
 こもっていた熱気がこちらまでムワリと届くと同時に、ジャラジャラとした大音声が耳をつんざいてくる。
 建物の中には多種多様なアーケードゲーム機器たちが立ち並んでいる。
 懐かしいレトロなゲームから定番のアーケードゲームなど、大人でも楽しめるラインナップだ。
 最新機種には目も向けず、桃花は目当ての場所へと一目散に向かった。

「クレーンゲームだね」

 総悟が感心していた。
 ガラスの箱の中に入っているのは、炎をモチーフにした物体を腕に抱き抱えたうさぎのぬいぐるみだ。

(狙うわ、今日こそは獲ってみせる)

 気合を入れて二百円を投入した。ジャラジャラと音が鳴ると同時に、アームにランプがついた。

(まずは横移動させて……それから奥に向かって……)

 クレーンのアームを作動させることができるボタンを慎重に押していく。

(よし、今日こそはいける!)

 そう思って、アームをぬいぐるみの真下に下ろした。
 ぬいぐるみのタグにアームが少しだけ引っかかる。
 だがしかし……