昨日、総悟が獅童にプレゼントしていた黒いクマのキーホルダー。

「あれにGPSを仕込んでたんだよね」

「え……?」

 キーホルダーにGPS。
 先ほどオモチャの音楽を鳴らしたと話していたが……

「スマホから遠隔操作できるように調整しててね、会話もずっと聞いてたんだ。桃花ちゃんが怖い目に遭うのは嫌だから、かなり急いで走ってきたんだよ」

 どうやら、ずっと話を聞かれていたらしい。
 こんな時だが、桃花は総悟に対して腹が立ってしまった。

「社長、盗聴は犯罪です!」
 
「こんな時にまで怒らないでよ、桃花ちゃん、今後は絶対にしないから許してよ」

 桃花は頬を膨らませて抗議の姿勢を示した。

「桃花ちゃんの言い分は後から聞くとして……」

 気を取り直した総悟が桃花と獅童を背後に庇うと、いつの間にか目の前まで近づいてきていた嵯峨野へと対峙した。

「さて、嵯峨野、あんたが昔っから、姉さんのことを独占している俺のことを嫌ってることも知ってたよ。だけどさ、会社に色々してきたり、俺と桃花ちゃんの仲を引き裂くのはやりすぎだよ。それに……桃花ちゃんに危害を加えようとしたこともね」

 総悟の双眸を見ると底冷えしそうなほどに暗く陰っていて、桃花はゾクリとしてしまった。
 だが、嵯峨野に動じた様子はなく、「はっ」と息を吐くと挑発的に問いかけた。

「お前たちが少し突いたら崩れるような、そんな脆い関係性だっただけだろう?」

「確かに……俺の覚悟が足りなかったから、あんたの言うことも一理あったのかもしれないけどね」

 総悟が伏し目がちになると、隙を逃さないと言わんばかりに嵯峨野が糾弾しはじめた。

「嗣子を見殺しにしたお前を……総悟、俺はお前を許さない。絶対にだ」

「あんたからすれば、そう見られててもおかしくはないよね。俺も姉さんが死んだのは俺のせいだって、ずっと思って過ごしてきたもの」

 その時、嵯峨野が総悟目掛けて大股で近づいてきた。

「総悟、俺から嗣子を奪ったお前は絶対に許さない! 直接の原因になった阪子の両親のことも! そうして、事故に巻き込んだ梅小路桃花の家族のことも!」

 嵯峨野の鬼気迫る表情。まるで悪霊か鬼にでも憑かれたのかというぐらいに、表情が歪みきっていた。
 桃花は、こんなにも強い憎悪を誰かに向けられたことなどない。
 しっかり立たないと圧倒されてしまいそうで、桃花はぎゅっと獅童を抱きしめた。

「言い訳でも弁明でも何でも良い! 何とか言え、総悟!!」

 激情に身を任せた嵯峨野が、沈黙を貫く総悟の胸倉を勢いよく掴んだ。

 瞬間。

(あ、私、この場面はどこかで……)

 桃花がズキリと痛む頭を抱えた。

 総悟と桃花の過去が重なり合った時の記憶が蘇ってきたのだった。