「桃花ちゃん、洗ってきたよ」

 唐突に総悟から声をかけられたため、桃花はびっくりして跳ね上がってしまい、思わず写真を取り落としてしまった。

(いけない!)

 ひらりと写真は床に落ち、桃花のデスクの下へと滑り込んでいく。

「皿を洗って気分転換できたよ、戸棚にしまってきたけど、合ってるよね?」

「はい、そうです。ありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして。って、桃花ちゃん、何やってるの?」

 桃花は写真を取り戻そうと、床にしゃがみ込んで、デスクの下を覗き込んでいた。
 ちょっとだけ手を伸ばしたら届く位置になる。

(う~ん、あと少し……!)

 あとほんのちょっとで指先が写真に触れようとしたのだが……

「落とし物?」

「ひゃあっ……!」

 唐突に真横から声がかかったので、桃花はビクンと大きく跳ね上がった。
 横目で見れば、総悟も床にしゃがみ込んでいるではないか。

「スーツ姿でそんな格好の桃花ちゃんも……可愛いね」

 彼は彼女のことをじっと見つめてきていた。

「そういう品定めをするような目で見られるのは好きじゃありません」

 桃花がツンとした態度で返答すると、総悟はニヤリと口の端を上げて、何か企んでいる少年のような顔をしていた。

「ああ、ごめんね。品定めをしてるわけじゃなくて、目に焼き付けてる」

「届いた! ……って、社長、何のために目に焼き付けてるんですか?」

 写真をなんとか取り戻した桃花は、総悟を見るなり思わず眉を寄せた。

「ん? まあ、あんまり気にしないで、こっちの事情だから」

「こっちの事情?」

「うん、世の中には知らない方が良いこともたくさんあるんだよ。ああ、この間みたいに写真にとっておけば良かったかな……なんて、冗談はさておき、目当てのものを拾えて良かったね」

 総悟の言い回しになんとなくモヤモヤしつつも、桃花は彼が大切にしている写真を拾うことが出来てホッとしていた。
 彼が膝に手をついて立ち上がると掌を差し出してきたので、彼女は手を重ねてその場に立ち上がる。
 先ほどまで水仕事をしていたからだろう、相手の手がひんやりして気持ちが良かった。

「二階堂社長、ありがとうございます」

「ん? いいえ、どういたしまして」

 朝早くから総悟に甘ったるい笑顔を向けられると、桃花の頬が紅潮してしまう。
 しかも、彼がなかなか繋いだ手を離してくれないので、彼女は戸惑いを隠せない。

「社長?」

 すると、総悟の視線が真摯なものへと変わると、ゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。

「子どものことがあったから、君へのプロポーズを急ぎすぎちゃったし、周囲への挨拶を優先させてしまったけれど……しっかり君と向き合って、ちゃんと君の承諾を得たいと思う」

「私の承諾を?」

「もちろん。それでね、せっかくだし、まずは君が二年前に俺に話したかったことを今晩にでも聞かせてもらえたらなって思ってるんだけど」

「二年前に私が話したかったこと」