「これから先、君と一緒に暮らすようになったら、こうやって手伝うからさ」

「食洗器があるから良いです」

「可愛くない言い方が可愛いなあ」

 総悟が面白そうに笑いを零すものだから、桃花は赤面してしまった。

「まあ、待っててよ」

「ですが、社長、さすがにそれは秘書の役目で」

「良いからさ、今日はそういう気分なんだって。早朝から仕事に出てるから気分転換も兼ねて、ね」

 そうして、総悟がティーカップとソーサーを盆に載せて、隣の部屋にある洗面台まで向かった。
 ちょうど桃花に背を向けた、その時、ひらりと彼のジャケットから何かが翻る。

「あ……」

 しかしながら、総悟は落とし物をしたことに気づいていないようだ。
 桃花が床にしゃがみ込んで拾うと、どうやら写真のようだった。

(これは、総悟さんがいつも大事に所持している)

 最近はポケットには触れなくなっていたけれど、ちゃんと仕舞ってはいたようだ。
 黒髪の綺麗な女性が映っている写真。

(京橋阪子さんじゃないって頭では分かっているけど……)

 ドクンドクン。
 心臓の音が激しくなる。
 けれども、勇気を出してよく見てみると……

「あ……」

 どうも京橋阪子に比べると、肌もより色白で、キリリとした目元をしていた。

「やっぱりこの女性、京橋さんじゃなかったのね」

 桃花はなんとなくホッとしてしまう。
 やはり総悟は嘘は吐いていなかったのだと、改めて実感させられた。
 ふと、白い裏面に何かが記載されていることに気付く。
 おそらく女性の名前だろう。


「嗣子」


 会長が「京香と嗣子が総悟を追い掛けていた」という話をしていたはずだ。
 確か母親はドイツ人だったはずだから、総悟の母ではないだろう。
 写真のそばに映る人物の姿を見る。

(そばにいる小さな男の子……獅童にそっくりね)

 我が子とそっくりな男児の姿を見て、総悟の幼少期ではないかと想像を巡らせる。

(だとしたら、この女性は総悟さんの……)

 姉ではないか?

(もしかしたら、京香さん以外に懇意にしていた幼馴染の女性の可能性だってある)

 二階堂姓が書いてあれば、間違いなく総悟の姉だと断定できるのに……

(いいえ、そうじゃないわ。姉だとか幼馴染の女性だとか関係ない。私はこの写真の女性を話題にするのから逃げてきてしまっていた。ちゃんと総悟さんは私に自分自身のことを曝け出してくれていたのに……)

 彼から自分が望まない真実を告げられるのが怖くて話題にするのを避けてきた。

(ちゃんと総悟さんに話を聞かなきゃ……!)

 心の中で自分自身を責め立てつつも、彼との明るい未来の想像がどんどん膨らんでいく。
 その時。