「ああ、今言ったみたいに、顔は似てるけどね。俺はもっと大人しかったし、なかなか寝付けない子どもだった」

 過去を懐かしむ総悟だったが、少しだけ瞳の光が陰った気がした。

「社長の幼少期は、もっとふてぶてしい人かと思っていました」

「ふてぶてしいって何さ、薄幸の美少年だよ。それに、総悟さんって言って欲しいって頼んでるんだけどな。また社長に戻ってるよ」

 少しだけ唇を尖らせる総悟に対して、桃花は敢えて何も答えなかった。

「まあ、わりと今の軽い感じになったのは、高校生ぐらいになってからかなあ。そっちの方が本当の自分を誰かに曝け出さなくて済むって思ったんだよね」

「曝け出したくなかったんですか?」

 普段の総悟とは別人のようなフレーズの数々である。

(だったら、これまで私が見てきた総悟さんは、ずっと自分を偽って生きてきた総悟さん……?)

 総悟の子どもを産んだにも関わらず、総悟自身のことを桃花はよく知らないのだと思い知らされてしまう。

「うん、そう。自分を曝け出しても良いことはないって思うようになっててさ。取り繕わないで本心を晒しているのは君の前だけだね」

 ……桃花の前でだけ。

 確かに総悟は桃花に過去の一端を話してくれた。

(そういうことを言われると特別な感じがして嬉しい)

「まあ、その子には、俺みたいに歪まないでまっすぐに育ってほしいなって思ってる」

 少しだけ寂しそうな総悟の表情を見て、桃花の胸がきゅっと軋んだ。
 あんなにも子どもは欲しくないと話していた総悟が、血の繋がりのある獅童に興味を示していて、未来のことまで案じてくれているのだ。

(私は総悟さんのこと何も分かっていなかった。子どもが欲しくないっていう総悟さんの理由をちゃんと聞きもせず、獅童の父親にしたら不幸になるって、そればっかりに囚われてしまっていた)

 ちゃんと総悟と向き合わないといけなかったのに、ずっと逃げてきてしまっていたのだ。
 桃花は、膝の上に乗せた両手をぎゅっと握りしめる。
 決意を固めると、総悟に向かって思い切って尋ねてみることにした。

「子どもは欲しくないと話していたけれど、実際にもう獅童は生まれてしまっているから気に掛けてくれているんですか?」

「確かに俺は子どもが欲しくなかった」

 ズキン。
 桃花の胸が再び軋んだ。

(やっぱり聞かない方が良かったのかもしれない……)

 なんだか緊張して胃の奥がキリキリと痛みはじめる。
 そんな桃花の様子には気づいていない様子の総悟が続けた。