総悟と桃花と獅童は、二階堂会長と京香としばらく遊んで食事をした後、挨拶をして帰ることになった。
 けれどもちょうど帰り際、正面玄関に竹芝副社長が慌てた様子で顔を出し、総悟と話をはじめたのだ。京香も二人に呼ばれて話に混じっている。
 獅童を抱っこした桃花が立ち往生していたら、思いがけず二階堂会長と二人で会話をすることになった。

「二階堂会長、この度はありがとうございました」

「こちらこそ。子どもの頃の総悟は、身体があまり強い子ではなかった。妻に出て行かれた私は、一人で子どもを育てないといけないと、会社経営を軌道に乗せることばかりに重きを置きすぎて、総悟のそばにはいてやれなかった。そちらの方が子どもたちのためになると思っての判断だったけれどね」

 会長の顔には諦観の念が浮かんでいた。

「総悟には姉がいてね、その子に看病を任せて、私は仕事にかかりきりだったんだ」

 桃花は瞠目する。

(三人で暮らしていたって話していたけれど、総悟さんにはお姉さんがいたのね)

 二階堂会長が遠い目をしながら話を続けた。

「総悟が自分の身体のことや将来について悲観していた時も、あの子の姉に全て任せてしまっていた」

「総悟さんのお姉さんは、総悟さんにとってお母さん代わりのような人なんですね」

「君の言う通り、総悟の七つ年上でね、母親代わりのような存在だった。まだ若いのに要らん苦労をさせてしまったと今でも後悔しているよ」

 会長の瞳には悲哀が見え隠れする。

「そうだな、もうあの事故から十二年になるのか」

 十二年。
 ちょうど桃花の両親が事故で亡くなったのも十二年前だった。
 桃花は黙って会長のことを見つめる。
 総悟から姉の話を聞かされたことはない。
 この家に住んでいるわけでもなさそうだ。
 
(会長の反応からして、総悟さんのお姉さんはもう……だったら、総悟さんの所持している写真の女性は……)

 会長が厳かに口を開いた。

「桃花さんは、総悟の姉に似ているよ」

 桃花はピクリと反応した。

「似ているというのは……?」

 そう言われれば、二年前、会長が桃花に対して「あの子のことを思い出したよ」と話していた気がする。

(見た目が似ているとかなら、なんだか複雑な気がする)

 すると、会長が柔和な笑みを浮かべた。

「見た目や雰囲気は全然違う。こうと決めたら譲らないところや、ここぞという時はしっかり主張するところかな?」

「……頑固なところということでしょうか?」

「そういうひねくれた受け取り方はしなかったかな?」