桃花の一番の気がかり。

(もちろん一番は……これから先、総悟さんが獅童のことをしっかり愛してくれるかどうか)

 母となった彼女からすれば、それが一番大きな問題だ。
 だけど……
 桃花の胸が忙しなく嫌な音を立てはじめる。
 獅童のことを愛してもらえさえすれば、それですんなり総悟と結婚したいかと言われればそうではないことだって、自分自身でも気づいてしまっている。

(私の本当の気がかりは……)

 写真の女性は総悟の想い人なのか?
 桃花の両親の交通事故の現場にいたから、総悟は桃花に同情しているのか?
 どうして総悟は子どもができない以前に子どもが欲しくなかったのか?

(総悟さんに対して疑問に思っていること、聞きたいこと、知りたいことがたくさんある)

 だけど……

(それらが全て解決さえすれば、それだけで良いの? 総悟さんと結婚できるの?)

 どうしてだか、胸の奥底に重い石かなにかがズシリと乗っかっているかのように、スッキリとした気持ちにはなれなかった。

(私が総悟さんと結ばれる上で、本当に気がかりに思っていること)

 だけど、考えれば考えるほど、まるで袋小路に迷い込んだネズミになってしまったかのように、グルグルグルグル同じところを堂々巡りしてしまう。
 その時、総悟の手が桃花の手をぎゅっと掴んだ。


「桃花ちゃん、悪い、真面目な君におかしな質問をしてしまった」


 彼は心底申し訳なさそうに眉根を寄せていた。

「何でも良い、君の感じていること、何でも良いから、どうか俺に聞かせてほしい」

「私は……」


 桃花の唇が戦慄く。
 総悟に対して思っていること。
 色んなことを考えれば考えるほどに心の中がぐちゃぐちゃになっていって……
 色んな感情が胸の中で渦巻いていって……


「本当は……貴方の言葉をどこまで信じて良いのか分からない」


 吐いて出たのは、自分でも予想外の言葉だった。

 総悟の瞳が揺らいだ。


「貴方のことを信じたいけど……どうしても、信じられない自分がいて……」


 想いが――言葉が――堰を切ったかのように溢れはじめる。

「京橋阪子さんの件だって、確かに総悟さんは子どもが出来づらかったかもしれないけど、私が妊娠できたんだから。だったら彼女が妊娠してたっておかしくないのにって。だからって、そんな感情をぶつけたって意味ないって。だけど、総悟さんのことを信じたいから、心の中で無理して『信じます』って、思い込ませようとして……」

 目頭が熱くなって前が見えなくなってくる。
 すると、重ねられていた総悟の手がそっと離れる。
 そうして、彼が寂しそうに笑った。

「君が俺を信じられないのは……俺がずっと君を傷つけてきたせいだ。全部俺のせいだ」

 そこで桃花はハッとする。

「……あ」

 今の発言はきっと総悟のことを傷つけた。

(確かに総悟さんのことで傷ついたこともあった。だけど、こんなに私のことを大事にしてくれようとしているのに。そんな総悟さんのことを傷つけようとしたかったわけじゃなくて。そんな言葉をぶつけたかったんじゃなくて……!)