二階堂会長と竹芝副社長の妻・京香に獅童を預けて、桃花は総悟に手を引かれて歩いていた。

「二階堂社長、どこに向かうんですか? ちょっと強引ではないですか?」

「ん? 強引かな? そうでもないんじゃない?」

「それは私が決めることだと思います」

「それは悪かった。だけどね、君に返さなきゃいけないものがあるんだ」

 ……返さないといけないもの。

 桃花は心当たりを思い浮かべた後、何げなく返した。

「うさぎのマスコットやブランケットや私の履歴書だったら、返していただかなくても結構ですが」

 総悟は返事をしてくれなかったが、代わりに彼が握ってくる手の力がぎゅっと強くなった。

「仕事の際に見かけましたが、ブランケットは大事に使っていただけているようですし……履歴書はちゃんと社の書類に返却した方が良いかとは思いますが……」

 しかしながら、やはり総悟からの返事はない。

「それにしたって、どれも社長室にありましたよね? あとは、社長のマンションにあったはずです」

 だがやはり、総悟からの反応がない。

(どうしたのかしら?)

 桃花は気になって彼の顔を覗いたのだが……

「社長? ……っ……」

 思わず瞠目した。なぜなら……

(総悟さん、耳まで真っ赤だわ)

 桃花がびっくりするぐらい総悟の顔は赤面していた。
 彼が俯きながらポツリと呟いた。


「桃花ちゃん本人から気づかれてるとは思ってなかった」


 彼は、どうしてだか赤面しているではないか。

(なんで顔が真っ赤なの?)

 初めてキスをした時の彼の反応のことを思い出してしまった。
 すると、気恥ずかしに総悟が続ける。

「桃花ちゃんがいなくなって……桃花ちゃんだと思ってずっとそばに置いてたんだ」

「えっ……!?」

 彼の言い分を聞いて、桃花までみるみる真っ赤になってしまう。

「なんか俺のこと、ちょっと痛いやつだと思ったよね?」

「いいえ、そんなことはなくて……」
 
 なんて返せば良いのか分からずに、桃花の胸もムズムズしてしまった。

「むしろ大事にされているなって、嬉しいなと思いました」

 総悟が先を歩くものだから、桃花からは顔が見えなくなってしまう。
 すると、彼がポツリと告げた。

「これからは、ちゃんと君を大事にするから」

「……っ」

 ますます彼の握った手の力が強くなる。
 その強さが、総悟が桃花のことを大事にするという気持ちの表れのようで……

(総悟さんの返したいものって何なんだろう?)

 桃花は総悟に強引に手を引かれるのが、なんとなく嫌じゃなくなっていたのだった。