車内では獅童がきゃっきゃっとはしゃぐ声が響いている。
 一方で、総悟と桃花の二人は黙って過ごしていた。
 静かなのに耐えられず、彼女は思い切って声をかける。

「二階堂社長、以前も母子を救急車に誘導してやっていたことがありましたけど、やっぱり子どもが嫌いなわけじゃないんですね」

 桃花に話し掛けられたからか、総悟がふっと微笑んだ。

「まあ、嫌いじゃないんだけど、そんなに子どもは得意な方じゃないかな? 特に自分の子どもって考えたら、どんな風に接して良いかが分からない。結構まだ気持ちは複雑なのが本音」

「そうなんですね」

 元々子どもが欲しくないと言っていた割には、かなり頑張った方だろう。

「そういえば、どちらに向かわれているんですか?」

「ああ、そういえば言ってなかったね。もう着くよ」

「え? ここって」

 到着したのは、閑静な住宅街の外れにある一際巨大な豪邸の前。

 ぽかんと口を開けたままの桃花に向かって、総悟がイタズラを思いついた少年のように微笑んだ。


「そう、俺の実家。これから君の義実家になる場所だよ」


 表札には――豪華な筆文字で「二階堂」と記されていたのだった。