桃花に立ち去られた総悟はデスクの前で戦慄いていた。

「俺と同じぐらい大事なやつって、誰だよ……」

 彼女の胸の内を占める男が自分以外にいるのは耐えがたい。
 総悟の胸を焦燥が駆けて落ち着かず、指先までざわざわした感覚が走っていく。
 震える手をデスク下に置いてあるブランケットへと伸ばすと、そっと抱きしめた。柔らかな感触で、刺々しくなっていた心が和らいでいく。

「桃花ちゃん……本当に帰ってきてくれるよね……?」

 桃花は帰ってくると言ってくれた。
 彼女のことを信用していないわけじゃない。
 だけど、二年前、待てど暮らせど帰ってこなかった桃花のことを思い出すと身が竦んだ。
 
 いつか帰ってきてくれると、ずっとずっと信じて待っていた。

 だけど、いつまで経っても帰ってきてはくれなくて……

 もうあんな思いは何度もしたくない。

 総悟は桃花の代わりだと思って大事にしてきたブランケットを強く抱きしめた。

「……俺以外の男のところに行くのも嫌だ」

 二年前に呆然と立ち尽くしていた時とは違う。

 このブランケットではなく……

 今はまだ手の届くところに本物の桃花はいる。

 だったら……

「待ってるんじゃだめだ。俺が動かなきゃ。迎えに行かなきゃ。もう絶対に逃がさない」

 ずっと桃花の代わりにと縋ってきたブランケット。

 それを椅子に掛けると、総悟は桃花の後を追って社長室から外に駆け出したのだった。