「そんなの、決まっているだろう? 俺は……大事な女性を……君を失ってまで、自分の子どもなんて欲しくないんだよ……!! 君の命を奪うかもしれない子どもなんか必要ない、必要ないんだ……!」
総悟の叫びには鬼気迫る何かがあった。
「二年前に君を一度だけ抱いた後、反省したんだ。俺がこういう身体だから、子どもが出来ているとは考えづらかったけれど、これから先、何度も身体を重ねていたら、そのうち妊娠させてしまうかもしれない。だから、しばらく君に触れないようにしていたら、君は俺のそばからいなくなってしまった」
桃花の全身にざわつきが走る。
桃花も経口避妊薬を内服しはじめた頃だったし、総悟も子どもを授けにくい体質だという、しかも行為はたった一度だった。
(だったら、獅童を妊娠したのは……限りなく奇跡に近い)
総悟が叫んだ。
「それに、俺は自分の身体に欠陥があるってだいぶ悩んだんだよ。万が一子どもが出来たんだとして、俺の子どもも同じ悩みを抱えて苦しむかもしれない。だったら、最初から生まれてこない方が幸せなんだよ!」
本来ならば喜ぶべき話なのに、父親である総悟は頑なに子どもの存在を拒否していた。
「そもそも俺は、君以外の女性とは……だから、隠し子がいるわけなくて……ああ、くそっ、どうしたら信じてもらえるんだよ。俺は……」
総悟が頭をかきむしりはじめた。
「どうしたら……俺が……俺には君だけなのに……」
「社長」
デスク越しだったが、総悟の両手が伸びてきて、桃花の両腕を掴んだ。
あまりにも力が強くて痛いぐらいだ。
「分からない、女の人は誰でも俺のことをすぐに好きになってくれたのに……誰でも皆、思い通りになってくれたのに……君だけが俺を好きになってくれない……君だけが……」
「落ち着いてください……っ……社長!」
「どうしたら好きになってくれる? 子どもを授けてはあげられないけど、君に愛されるためなら何でもするよ。だから、どうか、お願いだから……」
掴まれた腕から、痛いぐらいに彼の想いが伝わってくるようだ。
彼の手がカタカタと震えている。
「もう嫌だよ、いなくならないでほしい。俺のことを見てくれ。桃花ちゃん……桃花……」
「私は……」
桃花の心が揺れ動く。
愛した人に求められているはずなのに……
彼が他の誰かと自分を重ねていて、その誰かに去られるのを異常に怖がっているようにも見えた。
「社長は……他の女性と違って、私が貴方の思い通りにならなかったから、執着しているだけなのではないですか?」
「え?」
総悟の瞳が忙しなく揺れ動く。
「もしも私が貴方の思い通りになるような人間だったのなら、貴方は私に興味さえ持たなかったのでは?」
「桃花ちゃん、どうして、そんなこと言うの?」
「どうして、でしょうね」
桃花はそれ以上は何も答えることが出来なかった。
ずっと聞きたかったことでもある。総悟が桃花にそばにいて欲しいと思ってくれていることも分かっている。
だけど、どうしても、写真の女性のことや両親の交通事故の一件を話してもらえていないことなど、分からないことも多すぎる。
(どうしてここまで総悟さんが私に愛されたがっているのか、自分でも分からない)
総悟から縋るような瞳を向けられて、桃花の心は揺れ動く。
「私の両親の事故の件などがあるから……同情しているのではないですか?」
「違う、同情なんかじゃない! 俺は……」
ちょうど、その時。