イタズラがバレて落ち込む子どものように、総悟の表情からみるみる活気がなくなっていく。
「子ども、絶対にできるわけないんだよ。なんでこんなにも身に覚えのない話で、俺が桃花ちゃんに責められなきゃならないの?」
「確かに、社長の恋人でも何でもない私が口を挟んでしまったことは、反省しております」
「桃花ちゃん! 本当に俺には隠し子はいないんだよ、信じてよ!」
「信じろと言われましても……」
実際に、桃花は獅童を産んでいるわけだから、いないと言われてもイマイチ信用することが出来ない。
桃花は頭に手を当てると、首を左右に振った。
(獅童以外にも隠し子が何人か出てきそうね)
ますます不機嫌になった総悟が、京橋阪子に向かって醒めた視線を向けると、ハッと吐き捨てるように告げる。
「『色々知っている』と、これみよがしに話してきたから、一時的に雇ったに過ぎないし、しかも一度だけ夜に社長室内で喋っただけだ。しかも、専属秘書として雇用したわけではなく、秘書課から配属された臨時の秘書という形だった。くだらない嘘を吐いて俺たちの時間を奪わないでくれ。帰ってもらおうか」
彼の有無を言わさぬ態度は、桃花と再会した時のことを思い起こさせた。
その時、京橋阪子が突然ソファから立ち上がると、顔面蒼白のままフラフラと歩く。
「ごめんなさい、お手洗いに行きます。どちらにございますか?」
どうやら妊娠していること自体は嘘ではないらしい。
すると、総悟が京橋阪子に声をかける。
「もう戻ってこなくて構わない」
先ほどからの総悟の態度を見て、桃花は腹が立って仕方がない。
「社長は何も分かっていません! これ以上は黙っておいてください!」
蛇に睨まれた蛙状態になった総悟は、その場で打ちひしがれると、それ以上は何も言えなくなった。
そんな彼のことは放置して、桃花は阪子を追いかけたのだった。