そうして、総悟が晴れやかな表情で続けた。

「君が好きだった戦隊ヒーローの名前だよね?」

「あ……」

 二年前に一度だけ話しただけなのに、総悟はどうやら覚えていたらしい。
 ホッと安堵すると同時に、そんな些細な話を覚えてくれていたことが嬉しかった。

「ええっと、そうですね。あ、そうだ、総悟さんにいただいた獅童くんのぬいぐるみ、今も大事にとっています!」

「え? あの時のちゃんと大事にしてくれてるの? 嬉しいな」

 総悟が蕩けるような笑みを浮かべる。

「桃花ちゃん、また今度ゲームセンターに行こうよ」

「ええ、そうですね」

(とりあえず誤魔化せた……?)
 
 桃花がほっとしたのも束の間……


「戦隊ヒーローの名前の家族、ね」


 どうやら総悟としては、やはり獅童の正体が気になっているようで、顎に手を当てて悩みはじめた。

「桃花ちゃん、さっき『男性と関わるとしたら、祖父たち二人と会社の社員』って言ったよね?」

 そこで桃花はハッとする。

(しまった……!)

 だが、時すでに遅し。

「おじいさんのことはさ、普通呼び捨てにしないよね?」

 しばらく推理に耽っていた総悟だったが、桃花に真剣な眼差しを向けてくる。

「だったら、桃花ちゃんが好きな特撮が放映された後についた名前なのかな……? だったら桃花ちゃんよりも年下だ」

「それは……」

 まるで獰猛なネコから袋小路に追い詰められたネズミのような気持ちだ。

(どうしよう、祖母の曽孫ですって答える?)

 桃花が思案を巡らせていた、その時。

 トゥルルルルル。

 備え付けの電話が鳴った。

「ああ、もう大事な話をしてるのに。今日は俺の仕事はまだ始まってないんだって!」

 すこぶる機嫌を悪くした総悟が叫ぶ。
 なかなか鳴りやまない電話。
 業を煮やした総悟が、舌打ちすると、桃花の身体から離れてデスクへと戻った。
 桃花は内心ほっとする。

(電話が鳴って良かった……でも鳴ってなかったら、私は……)

 何か言い訳を考えないといけな。
 けれども、どうしようもなく彼に触れられた幸せな感覚がまだ残っていて、まだ頭の中がふわふわしている。

(獅童は親戚の子どもだって伝える?)

 だが、次の瞬間――総悟の発言を聞いて、桃花は衝撃を受けることになる。

「は? 前の専属秘書が戻って来て受付に立ってる? そんなの追い返せよ! え……?」

 けれども、総悟がそこで一旦口を噤む。

(何、どうしたっていうの?)

 桃花は彼の一挙手一投足から目が離せない。


「はあ? その専属秘書が、俺の子どもを妊娠してる?」


 総悟が、電話口で衝撃的な会話を繰り広げていたのだった。