「ねえ、桃花ちゃん、だったら、俺と一緒にデートに行ってくれたってことはさ……俺に脈はあるってこと?」

 脈アリかどうか尋ねてきつつも自信ありげな総悟の顔が、桃花の眼前にあった。

「社長、それは……」

 彼女の瞳が波のように揺れ動くと、彼がクスリを笑んだ。

「ああ、君が嘘がつけない子で本当に良かった。この間はマンションでごめん、やり直させてほしいんだ」

 この間とは、きっと桃花が総悟のマンションに看病に行った時のことだろう。

「やり直し、とは?」

「やり直しは……やり直しだよ」

 すると、彼の顔が近づいてきて、唇を塞がれてしまった。

(私、総悟さんからキスされてる)

 彼が何度も角度を変えて、彼女に口づけてくる。
 鼓動が高鳴っていく。
 二年ぶりに好きな人からキスをされて夢見心地になった。

「ん……」

「桃花ちゃん。ねえ、もっと俺のことを見て」

 二人の間で熱い吐息が交わされる。

「社長……あ……総悟さ……」

 彼の分厚い舌が、彼女の唇の中に侵入してくる。

「ああ、もっと、ねえ、口を開いて、俺を受け入れて……」

 どれぐらいの時間が経っただろうか。
 コーヒーメーカーが沸騰終了を音で知らせてくる。

「コーヒーが出来て……あっ……」

「後で淹れてよ……ねえ、今は君を味合わせてもらえたら、それで良いからさ」

 言葉通り、味わうように、彼の舌が彼女の口の中を丹念に這いずりまわる。
 彼に口の中を犯されていると、彼女の口の中から甘ったるい声が漏れ出た。

「ふあっ……ああっ……」

「もうずっと欲しかったんだ。君の中、甘くて美味しい」

 このまま快楽に身を委ねたくなってしまう。
 だけど、ここは職場だし、そろそろ就業開始時間だ。
 桃花は、総悟の頬を両手で包み込むと、なんとか唇同士を引き剥がした。
 二人の間に銀糸がかかる。
 桃花は、それを手の甲で拭いながら、潤んだ瞳で総悟へと告げる。

「もう十分過ぎました。ここは職場で……しかも、今は就業時間内で……」

「じゃあ、時間内じゃなかったら良いってこと……?」

「時間外ならまだ……」

 まだ……どうだというのだろう?
 自分で答えておいて自問してしまう。
 桃花の頬がますます真っ赤に染まっていく。

「だったら、今日の君の就業開始はあと一時間後からに変更するよ」

 総悟の指がブラウスの釦をゆっくりと外していく。
 鎖骨を撫ぜながら進まれると、身体がビクンと大きく反応した。