「心の闇が深い奴ほど表面的には明るかったりしてさ……まあ、それはともかくとして、桃花ちゃん、ホストに嵌ったりとかしてない?」

 桃花は首を横にフルフルと振ると、キリリと即答した。

「そんなお金はございません」

「うん、そうか。なら、ホストのことはもう良いや。じゃあさ、変な男と交際しているとか? 恋人じゃないにしろ、お金を貢がされているとか? 貢いでいないにせよ、マッチングアプリで出会ったヤバい男と会っているとか? おかしな男とつるんでない?」

(この人はいったい何の心配をしてきているんだろう?)

 まるで保護者のような質問の数々だ。
 桃花は毅然とした態度で返答する。

「社長もご存じかと思いますが、こんな性格なので、女性の友人しかおりません。男性と関わるとしたら、祖父たち二人と会社の社員ぐらいです。以前退職した際の同僚とは連絡をとってはいませんし……最近喋った男性は、二階堂社長と竹芝副社長ぐらいです」

 獅童の性別も男だが、成人していないので「男性」としてカウントしなくても良いだろう。
 すると、先ほどまで不機嫌だった総悟の頬が緩んだ。

「恋人はいないの?」

「誰にですか?」

「そんなの君に決まってるじゃない」

 桃花は頬を朱に染めると俯いた。

「いたら、異性と二人で出かけたりしません」

「そうだよね、桃花ちゃんの性格ならそうだよね! 男性にモテてる自覚がなくて、本当に良かった!」

「モテた試しがございませんので」

 ……自分で言って悲しくなってきた。

 すると、総悟がホッとした様子で胸を撫でおろした。

「桃花ちゃんに恋人がいなくて本当に良かった」

(私に恋人がいないことをこんなにも喜んでくれるなんて……やっぱり総悟さんは私のことが……)

 好きなのだろうか?
 だとしたら嬉しい。
 けれども、自惚れかもしれないし、自分の願望が投影されているだけなのかもしれない。
 その時、総悟が後生大事にとっていた写真の女性が、桃花の脳裏に浮かんでくる。

(総悟さんが私に抱く「好き」は、専属秘書である私に対しての「好き」なのよ。特別な「好き」は、あの写真の女性にだけなんだから……)

 きっと自分にだけ向けられた「特別な好意」ではないのだ。

(私は好きな人の子どもを産みたかったから産んだだけだもの……そういえば、最近の総悟さん、あまりジャケットのポケットに手を伸ばさなくなったわね)

 以前は何かがある時、必ず触れていたのだけれど……

(違う癖に代わった……?)

 その時、総悟の両手が桃花の頬を包み込んできた。