「いや〜話が分かる方で良かった。ご自分から娘と結婚したいと申し出てくれたのですからな」

父が機嫌良く笑う。

「ええ、当然です。俺にはステラに対して負わなければならない責任がありますから」

「まぁ、なんて潔い方なのかしら。堂々と打ち明けてくれるなんて潔い方ですわ」

「お褒め頂き、光栄です」

母の言葉に会釈するエド。
何だか3人の話が噛み合っていないのに、通じ合っているようだ。

「それで早速なのですが、今すぐにでもステラと婚約をさせていただきたいのですが。両親からは結婚相手はお前の意思に任せると言われておりますので、何の問題もありません」

「それは理解の良い親御さんで助かりますな。こちらとしてもすぐに婚約、いや結婚させても良いほどです。何しろ、既にステラは結婚適齢期に入っておりますからな」

「それなら今ここで二人に結婚誓約書を書いてもらって、明日にでも指輪を作りにいったらどうかしら」

私を抜きにして、3人でドンドン話が先に進んでいく。

「結婚!? ちょっと待って下さいよ! 私はまだエドと結婚するなんて言ってませんけど?」

するとエドが悲しげな顔を向ける。

「俺じゃ駄目なのか……? ステラ」

「うっ! だ、駄目というか……」

エドは確かにイケメンだ。すれ違う女性にニコリと微笑めば、全員がポ〜ッとなること間違いないだろう。
だけどエドの本当の目的は私ではなく、私の所持する食べ物が目的なのだ。仮に、結婚でもしようものなら……全て奪われてしまうかもしれない!

「それじゃ、駄目ではないんだな?」

笑顔で私を見つめるエド。その目は……まさに捕食者の目だ!! 私の食糧を狙う捕食者だ!

思わずゴクリと息を呑んで、エドから視線をそらせずにいると両親が勘違いする。

「まぁ、そんなふうに見つめ合うなんて……すっかり二人は気持ちが通じ合っているのね」

「そうだな、お似合いの二人だ。何しろエド様は平凡なエイドリアンとは違う。何処高貴な物を感じられる」

頷く父。
それは当然のことだろう、何しろエドは王族なのだから。……ただし、王位継承権のない、第6王子だけど。

「エド様、今夜も我が家に泊まっていかれてはどうですか? もう時間も遅いことですから」

母の提案に、エドは笑顔で返事をする。

「本当ですか? ありがとうございます。では、お言葉に甘えて今夜も宿泊させて下さい」

「そうだな。是非とも泊まっていってくだされ」

「はい!」

こうして、3人だけで話は盛り上がり……夕食会は終わった……。



****


「エド、一体どういうつもりなんですか? 私がエドと婚約することの何処が良い考えなのです?」


両親に「エド様を客間に案内するように」と命じられた私は、エドを客間に案内すると尋ねた。

「俺と婚約すれば、カレンは完全に諦めてステラに嫌がらせをしなくなるんじゃないのか? カレンも俺に執着するのをやめるだろうし……まさに、一石二鳥だとは思わないか?」

エドはソファに座ると、私を見上げた。

「う〜ん……でも、本当の目的は私の持っている食糧なのではありませんか? 正直に言いますが、いずれあの部屋に置かれた食べ物は底をつきます。そうなると、二度とエドが食べたいと思っているスナックやおせんべいは食べられなくなるのですよ」

すると、エドは悲しそうな顔を浮かべた。

「ステラ……本気で言ってるのか?」

え!? ま、まさか日本の食べ物が食べられなくなるのがそんなに悲しいの!?

「ま、まぁ、節約すればまだ大丈夫でしょうけど……と、とにかく魔女の集会で何か新しい情報が手に入るかも知れないので、それまでは節約していきましょう」

「そうだな。まぁ……その頃には……だろう」

エドが考え込むかのようにつぶやく。

「え? 何か言いましたか?」

「いや、なんでもない。それより、そろそろ寝ようかと思うんだが……一緒に寝るか? ステラ」

「はぁ!? 何言ってるんですか? もう一緒になんか寝ませんからね!」

冗談じゃない。さては私と一緒に眠りについて……勝手に部屋の中の食糧を持っていくつもりだな!?

「アハハハ……冗談だよ。冗談」

「はい、ではごゆっくりお休み下さい」

「うん、おやすみ」

私はエドを客間に残すと、自室へ戻った。


そして眠りに就いた私は、今夜も日本の自室で目が覚める――