「まぁ、ようこそお越しいただきましたわ。エド様」

「……逃げずに我が家に来てくれたようですな。中々度胸のある方だ」

屋敷に到着するとすぐに、エントランスまで父と母が出迎えに現れた。
父の言葉に不自然さを感じながら私は両親に告げた。

「エドがお父様とお母様にお話があるそうなので、お連れしたのですが……よろしいでしょうか?」

「ええ。勿論よ」
「それでは食事をしながら話をしようではありませんか」

「はい、是非お願いします」

両親の提案に笑顔で頷くエド。
何やら3人の間に思惑があるような雰囲気だ。私はついていけず、1人首をひねっていると母に声をかけられた。

「何をやっているの? ステラ。食事の用意が終わるまで、お客様を応接間にお通ししないと」

「あ、そうですね。では……」

するとエドはとんでもないことを言ってきた。

「いえ、応接間よりもステラの部屋に行きたいのですが」

「「「は?」」」

父と母は豆鉄砲を食らったかのような顔つきになるし、私はエドの魂胆にピンときた。

まさか……またしても、私のとっておきの食べ物を貰うつもりでいるのでは!?
流石にそれだけは阻止しなければ!

「えっと、エド。私の部屋には……」

「そうだな! それがいい!」
「ステラ、自室に案内なさい」

「えっ!?」

あろうことか、両親がエドの言葉に賛同した。
絶対に認めないと思っていたのに!?

「あ、あの……」

嘘だよね? 両人に目で訴えるも無情な言葉を浴びせられる。

「ほら、何をしているの?」
「早くお連れしなさい!」

「はぁ……分かりました……では、行きましょうか? エド」

「そうだな、早く行こう」

ニコニコするエドを連れて、私は渋々自室へ連れて行くことにした――


****


「ステラ。もうスナックは無いのか?」

部屋に入るなり、エドは予想通りの質問を投げつけてきた。

「……ありませんよ。エドがぜーんぶ持っていってしまったじゃないですか」

いや、正直に言えば……まだある。
しかし在庫は僅か。
それに、もうあの部屋に残された宝箱? も半分以下になってしまった。
これ以上自分の取り分を……奪われるわけにはいかない!

「そうか、残念だな。……でも、まぁいいか。これからは……」

エドが何やら呟いているが、最後の方は言葉が小さすぎて聞こえない。

「エド? 今、何か言いましたか?」

「いや? 別に何も。今夜の食事は何が出るんだろうな〜ステラの屋敷の食事は美味しいから今から楽しみだ」

「は? もしかして、食事を食べるために我が家に来たのですか?」

「まさか、そんな筈無いだろう?」

ブンブン首を振るエド。

「ふ〜ん……なら、一体……」

そこまで話した時、開けていた扉から母が顔を覗かせた。

「食事の用意が出来たわ。ダイニングルームへ来てくださいな」

「はい! 直ちに。さぁ、行こうか? ステラ」

エドが手を差し伸べてきたので、つい無意識にその手を掴んでしまう。

「ま、やっぱり」

その様子に母が嬉しそうにポツリと言う。
やっぱり? やっぱりとはどういう意味だろう?

何のことやら分からず、私達はダイニングルームへ移動した――


****

「さぁ、どうぞ。エド様、今夜はいつも以上に豪華な料理を振る舞わせていただきます」

得意げに話す父。
確かに今夜の料理はいつも以上にすごかった。テーブルの上は肉料理からオードブル、焼き立てパイや魚介料理がぎっしり乗っている。

あまりの量の多さに見ているだけで胸焼けが起こりそうだ。

「素晴らしい料理ですね。とても美味しそうです」

大食漢? のエドはもとより、両親も異常な程ニコニコしている。
一体、何がそんなに嬉しいのだろう。

「どうぞ、召し上がって下さい」

母がエドに料理を勧めた。

「ありがとうございます、でもその前に……アボット伯爵! どうかステラと結婚させて下さい!」

「ええええっ!?」

いきなりの爆弾発言に声を上げたのは、勿論私だ。

「ちょ、ちょっとエド! いきなり何を……!」

「「ええ、勿論です!!」」

「はぁっ!?」

すると、あろうことか両親が声を揃えて返事をした――