「な、何で……このお菓子の袋がこ、ここに……?」

呆然としながら、ガタガタ揺れる馬車の中で3つのお菓子の袋を眺める私。
椅子の上にはポテトチップス、グミ。それに海苔せんべいの袋が置かれている。しかもいずれも未開封だ。

「一体どうなっているの……?」

やっぱりさっきの世界は夢で、この世界が現実なのだろうか? だけど、何故夢の世界で手にしたお菓子の袋が目覚めれば手元にあるのだろう?

そこで私はあることに気付く。

「はっ! ま、まさか……魔法……?」

よく小説や漫画では異世界転生先は魔法が普通に使えたりする設定になっている。
もしや、この世界にも魔法というものが存在しているのかもしれない。

ステラの身体に憑依して5日目。まだ魔法というものを目にしてもいないし、聞いたことも無いけれど恐らく魔法に違いない。

「なるほど……つまり、これが私の魔法というわけね」

一体どんな魔法か口ではうまく説明できないが、私は夢の世界で手にしたものを目覚めたときに持ってこれる……のかもしれない。

「な〜んてね。まっさか〜。どうせこれも夢に決まっているわ」

そう思い、試しに自分の頬をつねってみる。

「……普通に痛い……」

それにしても随分リアルな夢だ。夢なのに痛みを感じるなんて……。それならば……!

試しにポテトチップスの袋を開けようとし……思いとどまり、グミの袋に手を伸ばした。
グミなら、馬車の車内をちらかすこともないだろう。早速開封すると、とりあえずオレンジ味のグミを口に入れてみる。

「……甘い。オレンジの味がする!」

そんな、夢の世界なのに味まで分かるなんて……!

その時。

ガコンッ!

馬車が前に大きく傾き、停車した。そして……。

キィ〜……

扉が音を立てて開かれ、御者が姿を現した。

「ステラお嬢様、邸宅に着きました……え? それは一体何でしょう? 馬車に乗り込む時はそのようなものはありませんでしたよね?」

椅子の上に置かれたお菓子の袋を指差す御者。

「そう……やっぱり見えるんだ」

「え? ええ。見えますが……? それはどうされたのですか?」

戸惑う御者に肩をすくめた。

「さぁ? 私も良く分からなくて」

分からない事象に関して説明など出来るはずもない。
とりあえず、お菓子の袋を小脇に抱えて私は馬車から降りた――



****


 私が早々に屋敷に戻ってきたという話は即座に両親に伝わり、早速両親の待つリビングに呼び出されていた。

「ステラ、どうだった? エイドリアンとのデートは?」

向かい側のソファに座る父が質問してきた。

「さぁ? あれをデートと言うのでしょうか? 何しろ、エイドリアンはカレンとかいう女性と一緒に待ち合わせ場所に来ていましたから」

そのせいで、私は全く接点もない男性に声をかけてしまった。しかも傍から聞けば、まるでナンパのような口調で。

「カレン……? またあの令嬢か!?」

途端に父の顔が険しくなる。

「本当にエイドリアンには困ったものだわ。ステラという婚約者がいるというのに」

母がため息をつく。

「え? お二人はカレンという女性のことを御存知なのですか?」

すると、私の質問に2人は視線を合わせ……頷いた――