講義が始まる寸前に、カレンが教室に入ってきた。

するとその途端、学生たちが一斉にざわめく。

「カレンが来たぞ」

「良くも図々しく大学に来れるわね……」

「目を合わせないほうがいいぞ。狙われるかもしれない」

等など……えらい嫌われようだ。
昨日まではカレンは学生たちの受けは良かったはずなのに、この変わりようは一体なんだろう?

カレンも、何故突然自分が周囲から非難の目を向けられているのか理解できないようで戸惑っている。

けれど、自分に対して敵意の目を向けられているのはヒシヒシと感じているようだった。
いつもは一番前の席に取り巻きたちと座っていたのに、今日は廊下側の一番後ろの座席に着席した。

その様子を横目で見ていると、エドが話しかけてきた。

「ステラ、見てみろよ。このクラス中の学生たちの変わりようを」

「ええ、そうですね……流石に露骨すぎますね」

昨日までは私が今のカレンと同じ立場にいただけに、なんとも複雑な気分だ。

「これは、やはり魔女が細工をしたのだろうな。それとも何らかの薬の効果が切れたのかもしれない」

「はぁ……その可能性はありますね」

至近距離の上、耳もとでエドが囁いてくるので背筋がゾワゾワしてたまらない。

「うわっ! カレンがこっちを見たぞ!」

エドが心底嫌そうな声を出す。カレンはエドに縋り付くような視線を向けていたが、私と目が合うと物凄い形相で睨みつけてきた。

うわぁ……露骨過ぎる。
そこで私はエドに声をかけた。

「エド、気をつけてくださいね。何と言っても昨日エドはカレンとデートをしているのですから。カレンにとって、今のエドは自分を地獄の底から救い出してくれるヒーローだと思っているはずです」

何しろ、頼みの綱の取り巻き男たちは大学に来ていない。いや、多分もう二度と来ることは無いだろう……そんな気がする。

「や、やめてくれよ。俺はカレンなんてお断りだ。だいたいデートだって、あれはステラに言われて渋々しただけじゃないか。そんなことは君が一番良く分かっているだろう?」

「まぁ、確かにそうですが……でも、エド。カレンは私と同じように『魂の交換』が行われた人物なのかもしれないのですよ?」

「それがどうしたんだ?」

首を傾げるエド。

「つまり、私と同じ世界から来た可能性があるというわけです。もしかすると、私なんかよりも、もっと色々な食べ物を所有している可能性もありますよ?」

「何だって、それは……」

一瞬、エドは目を大きく見開き……すぐに首を振った。

「い、いや! それでも駄目だ! 俺はカレンのようなタイプは全く好みじゃない」

激しく首を振るエド。

「何故、そんなにカレンを毛嫌いするんです? そんなに悪い見た目じゃ無いと思いますけど?」

そう。カレンはその名の通りに可憐な女性なのだ。だからこそ、婚約者のいる男性を誘惑することが出来たのだろう。

「そういう問題じゃない。とにかく、俺は断固拒否するぞ。……よし、決めた」

「何を決めたんですか?」

「ステラ、今日屋敷に寄らせてくれ。いいか?」

エドが真剣な目で尋ねてきた。
余程エドはカレンに捕まりたくないのだろう。

「えぇ、別に構いませんけど?」

何しろエドが今現在、カレンにロックオンされているのは私のせいなのだから。


けれど、この日……カレンがエドに近づくことは無かった。
恐らく他の学生たちの目を恐れて近づきたくても出来なかったのだろう。


そして……放課後。

ちょっとした事件が起きた――