「エド、不思議だと思いませんか?」

「何が不思議なんだ?」

私の言葉に首を傾げるエド。

「カレンのことですよ。彼女は婚約者がいる男性にちょっかいをかけていたんですよ? なのに何故今まで誰にも批判されてこなかったのでしょう? 今日になって初めて批判されたみたいでしたよ」

「確かに言われてみればそうだな……今まで誰も彼女のことを悪く言う人物はいなかった」

「そこですよ、それなのに何故か今朝から突然カレンに婚約者を奪われた女性たちが彼女に文句を言ってきました。それどころか今日は学生たちが私に挨拶をしてきたのですよ」

「何だって!? ステラに挨拶をしてきたのか!?」

何故か妙に驚くエド。

「はい」

「し、信じられない……。俺の知る限り、ステラはこの大学内で嫌われ者で有名だったのに。挨拶どころか存在を無視するか、コソコソ悪口を言うような対象だったはずなのに……?」

「あ〜なるほど、そうですか……」

エドの話を聞いていたら、何だか虚しい気持ち? になってきた。

「どんな風に皆は挨拶してきたんだ?」

え? そこ大事!?

「別に、至って普通の挨拶ですよ。『ごきげんよう』だとか、男子学生からは『今朝も良いお天気ですね』とか……」

「何だって? 男子学生からも挨拶されたのか!?」

そこで再び目を見開くエド。

「そうですよ」

「そ……そんな……まさかステラに、男子学生が挨拶してくるなんて……」

「はぁ!? ちょっと何言ってるんですか!? って言うか、何で青ざめているんですか!? 思春期の男子学生じゃあるまいし!」

エド……あなた、確かとっくに成人していましたよね!?

「ま、まぁ話は分かった……つまりカレンが女子学生たちに文句を言われ始め、代わりにステラが挨拶され始めたというわけか」

「そんなところです」

「う〜ん……これは偶然なのだろうか、それとも必然なのだろうか……?」

「多分、偶然では無いと思いますよ。私が周囲から嫌われるという魔女の薬の効果が切れ、カレンは周りを魅了するような薬を乱用して、その効果が切れたのか……」

「同時に起こった可能性があるな。もしく魔女が何かしたのかもしれないぞ?」

魔女……確かにその可能性はある。
何しろ、私は彼女に「スマホ」を上げたのだ。あれほど大喜びしていたので、何か目に見えないプレゼントをしてくれた可能性がある。

「でも、これで大学生活を過ごしやすくなりますよ」

「そうだな。ところでステラ……」

突然、エドが深刻な顔になる。

「なんですか?」

「俺のこと、恨んだりしていないよな!?」

「はぁ? いきなり何言い出すんですか」

「さっき、ステラを見捨てるような真似をしてしまっただろう?」

あ〜……そうだった。
肝心なことを忘れていた。

「そう言えばそうでしたねぇ……でも別に恨んでいませんよ」

何しろ、今言われるまで忘れていたのだから。

「本当か!? 本当に恨んでいないんだよな?」

情けない声で尋ねてくるエド。

「別に言いませんよ。何しろ、魔女のことを教えてくれた恩人ですからね

「それじゃ、『もうエドに食べ物をあげるのはや〜めた』とか、絶対に言わないでくれよ!?」

あ〜なるほど、そっちの心配していたのか……。

「分かりましたよ。言いませんから」

本当に、エドはこの世界のヒーローなのだろうか……?

密かな疑問を抱きつつ、私はため息をつくのだった――