今朝は何だか様子がおかしい……。

先ほど3人の女子学生たちに出会ったときから感じていたが、違和感が益々強くなってくる。

「あ、おはようございます。ステラ嬢」

「ごきげんよう、ステラ様」

「今朝も良いお天気ですね」

学生たちが私に挨拶してくるのだ。

「は、はぁ……おはようございます……?」

不思議に思いつつ挨拶を返し……教室に入るやいなや、エドが駆け寄ってきた。

「ステラ! 大丈夫だったか!?」

「ええ、まぁ大丈夫でしたが……」

「本当に大丈夫か? 叩かれたり、突き飛ばされたり、もしくは言葉のナイフで傷つけられたりはしていないか?」

エドはやたらと私の心配をしてくる。

「ですから、大丈夫だと言ってるじゃありませんか」

「そうか……なら良かった。ひとまず席に座ろうか?」

2人で一番後ろの席に座ると、早速エドが尋ねてきた。

「けれど、随分早く戻ってくることができたじゃないか。カレンの用件は済んだのか?」

「さぁ? 多分、終わってはいないと思いますけど?」

「何だって? 随分曖昧な返事だな……一体どういうことなんだ?」

エドが首を傾げる。

「私もよく分かりませんが……『魂の交換』や、あの部屋に一緒に行った他ならぬエドです。この際なので、正直にカレンのことについてお話しましょう」

そうだ。私は何故エドにカレンの素性を話していなかったのだろう? あれだけ目の敵にされているのだから……別に話してしまっても良くない?

「カレンの……? もしかすると、彼女には何か秘密があるのか?」

「はい。実は彼女も(多分)私と同じく『魂の交換』が行われているのですよ」

「何だって? その話、本当か!?」

「ええ、そうです。しかもそれだけではありません。カレンはこの世界が自分の良く知っている世界だと思い込んでいるのです。例えば、小説の中の世界に入り込んでしまったとか……」

「小説の世界ねぇ……」

エドが呆れたような顔を見せる。

「あまつさえ私はこの世界の悪女であり、しかもエドは自分と結ばれるヒーローだと思っているのですよ」

「はぁ!? な、何だって!? じょ、冗談じゃない!」

余程エドはカレンのことがイヤなのだろう。彼の顔は一瞬で青ざめる。

「とにかく思い込みの激しいカレンは、私は悪役令嬢で自分はヒロイン。ヒーローであるエドと、一緒に私を断罪するのが目的のようですよ」

「断罪……? ステラ。何か断罪されるほど悪いことをしてきたのか?」

「さぁ……多分していないと思うのですけど。何しろ記憶が無いので」

はっきり、していないと答えられないのが残念だ。

「そうだったよな……確か、ステラは重い健忘症にかかっているんだった」

ため息をつくエド。

「ちょっと! 誰が健忘症ですか! 大体、私が悪女ならカレンは極悪令嬢ですよ。何しろカレンの取り巻きたちは皆、婚約者がいる人達ばかりだったんですから」

「何だって? そうだったのか? それは酷い話だ」

「ええ、そうですよ。私にだって一応婚約者がいたのですし……」

そこまで口にし、やはり私は違和感を覚えた。

カレンはそんなことをしておきながら、何故今まで周囲から何も言われてこなかったのだろう――と。