「これで良いのね?」

魔女はカウンターテーブルに一つずつ設置された鏡を見つめながら尋ねてきた。

「はい、そうです。もう、ばっちりですよ」

これから彼らの身に起きる出来事を考え、にやけが止まらない。

「それじゃ、ステラ。もうすぐお客様が来るようだから、準備を始めましょうか?」

「はい、魔女さん!」

私は元気よく返事をした。


****

ボーン
ボーン
ボーン

静かな部屋に、16時を告げる鐘の音が鳴り響く。

――ガチャッ

扉が開かれる音が店内に響き、例の男3人衆がぞろぞろと店の中へ入って来た。

「おい、この店…‥‥一体何なんだ?」

「そんなの知るはず無いだろう?」

「大体、何でここへ来てしまったのだろう……?」

首を傾げながら、3人はカウンターに近付き……驚きの表情を浮かべる。

「ゲッ! ステラ!」

「何でお前がここにいるんだよ!」

「こんなところで何してるんだ!?」

彼らは私を指さしてくる。……全く、失礼な態度を取ってくれる。
けれど不満を隠して笑みを浮かべた。

「いらっしゃいませ、お客様達。どうぞ、こちらの席にお掛け下さい」

すると私の暗示が現れたのか、途端に彼らは呆けた顔になってフラフラと着席した。

「はい、それでは私の淹れた特製のコーヒーをお飲みください」

彼らの目の前に程よい熱さのコーヒーを置く。勿論、中には例のアレが混入されている。

「いいですか? 鏡の前の自分を見つめながらコーヒーを飲むんですよ。分かったら返事をして下さい」

「「「はい」」」

私の言葉に声を揃える3人。

「はい、では飲んで下さい」

3人は鏡に映る自分の顔をじっと見つめながらコーヒーを口にした――


****


「「またのご利用、お待ちしておりまーす」」

私と魔女の声に見送られるように3人は店を出ていった。
全員が魔女からプレゼントされた手鏡を手にして自分の顔をうっとりと見つめていたのは言うまでもない。


「ふ〜……やっと帰ってくれたわ。やれやれ」

魔女は椅子にもたれかかるとため息をついた。

「ええ、そうですね」

苦笑しながら私は返事をする。
やはり彼らもエイドリアン及び、彼の父親同様鏡の前から動こうとしなかったのだ。
全員がうっとりした目つきで鏡を見つめて、背筋の寒くなるような台詞を口にしていたのだから。

『美しい……世の中に、こんなに完璧な美貌の男がいたとは……』

『切れ長の眉、青い瞳……何て美しいのだろう。もはや……罪だ!』

『もう自分以外は愛せそうにないな……』

「それにしてもステラは凄いわね。まさか自分自身を好きになるように惚れ薬を飲ませるなんて。私には考えつかないことだわ。ある意味……すごく恐ろしい罰ね」

魔女は腕組みしながら頷く。

「ありがとうございます。それで、あの薬の効果は半永久的でいいんですよね?」

「ええ、そうよ。私の得意分野は薬を作ることなんだから。ま、私の目が黒いうちは無理でしょうね」

「それじゃ、あの3人は死ぬまで自分しか愛せないってことですね」

「ええ、そういうことよ」

私と魔女は互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべた――